10.03「電磁波」
あらすじ
「遂にこの私も電磁波にやられたらしいな……地味に有り得ない連中が視界に映っている……」笑星くん、死の町の空気にやられます。それから懐かしい方々がこれから登場します10話3節。
砂川を読む
Time
19:00
【笑星】
「ッ……」
つまづいた。
【四粹】
「笑星さんっ」
転ぶことはなく……玖珂先輩に支えられた。
後ろを見ると、石ころとかは特に何もなくて……。
【信長】
「大丈夫か、笑星?」
【笑星】
「……はは、ちょっとグラついた、かも」
さっきから、ちょっとだけ身体の調子がおかしいかな、って思うようになった。
具体的に何処か、は分からないにしても確実に何かがおかしい。嫌な汗が流れてる。
【深幸】
「お前……ちょっと顔色悪いぞ……」
【笑星】
「大丈夫大丈夫、いずれ皆もこうなるから……」
【信長】
「怖いこと云わないでくれ……」
【四粹】
「旅の疲れ、ならいいのですが……これは電磁波の影響かもしれませんね」
【笑星】
「うん……俺も何となくそう思う。予想してたよりも、ずっとヤバいよコレ」
そこそこ昔に流行ってしまった放射能による被曝のことを思い出す。
もしアレみたいなものだったら、この町に住んでる人達は皆……。
* * * * * *
【大人】
「俺らは空元気で乗り越えてるが、えっと……電磁波って云ってたっけ亜弥ちゃんは。それが今この町に蔓延しててな、大半の連中が体調を崩してる」
【大人】
「あんまり浴びすぎるとお前さん達も身体壊すかもしれねえ。今の優海町はどっちかというと死の町だ。過去形じゃねえからな、進行形だからな、無理すんなよ」
* * * * * *
【笑星】
「洒落にならない……死の町じゃん、ほんとに」
【信長】
「ああ……恐ろしいな」
色んな建物が並んでいる……けど、おじさん達も云っていたようにほぼ総てが半壊して外気に晒されている。
覗けば、其処には誰も居ないのが殆どで……きっと役所とか、まともに建物保ってるところに避難してるんだと思う。
【四粹】
「しかし、避難できていない、いや……していない方々もそれなりにいる」
【深幸】
「さっきのおっさん達みたいにな。何考えてんだか……」
【笑星】
「……! 大丈夫!?」
ボロボロの道路を崩れないこと祈りながら歩いていたら、すぐ其処に転がっている人を発見した。
駆けつける。息は普通にある……。
【大人】
「……? 君たちは……」
【笑星】
「俺たちのことより、どこか調子悪い? 電磁波?」
【大人】
「君も、大概調子悪そうだけど……一緒に、美千村先生に診てもらおっかー……うふふ」
【深幸】
「ダメだこりゃ、ちょっと混乱してるな……」
【信長】
「医者のところに連れて行くべきだな。俺たちが担ぎますので、その人の場所を案内してくれませんか?」
【大人】
「イケメンの男の子たちに囲まれて生を終えるなんて……ソレも、いいかもしれないわね、うふふ」
【深幸】
「変なこと云ってないで案内してくれ!」
松井先輩に担いでもらって、ちょっと信用に欠ける女の人のナビゲートのもと、道を蛇行する……。
……………………。
【杏子】
「ん……?」
【大人】
「とうちゃーーく……ありがとー松井くん、皆ぁー……お姉さん助かっちゃったぁー」
【笑星】
「無事着けてよかったねー白石さん」
【深幸】
「5,6回道間違えてたけどな……」
【杏子】
「……何やってるんだ、お前達……?」
公民館っぽい場所だった。珍しく雨風を防げるぐらいには建物やってる建物だった。
どうやら此処に避難してきてる人達の面倒を見ているお医者さんのようだ――
【笑星】
「――ってあれ!? どっかで見たことある!!」
【四粹】
「美千村先生ですね。ミマ島でお世話になりました」
【深幸】
「ああそういや……俺ら井澤先輩以外にも知り合い作ってたな……」
【杏子】
「遂にこの私も電磁波にやられたらしいな……地味に有り得ない連中が視界に映っている……」
【信長】
「あの、すみません美千村先生、幻像ではなくガチで俺たちです……こんなタイミングで来訪してすみませんが、取りあえず白石さんを診ていただけないでしょうか」
【大人】
「あれ、皆、知り合いなの……?」
【杏子】
「……そうだな……取りあえず私の忠告も聞かずに自宅の掃除をしに行った頭の緩い白石さんを眠らせることの方が先決か」
【大人】
「いやー案外イケると思ったんだけど、ダメだったねーいきなりきたよ美千村先生ー……」
【杏子】
「この町に立つ者全員、もう被爆していることを自覚してくれ。……少し待っていろ。話は後で聞く。それから堊隹塚、お前も来い診断してやる」
【笑星】
「あ、はーい……」
何かお説教されそう。
……………………。
Stage
優海第二公民館
【杏子】
「……さて、一体どういうことか説明を聞こうか」
【深幸】
「俺らも説明戴きたいことわんさかあるんだが……」
美千村先生は凄く忙しそうだった。
だけど隙を見て俺たちの為に時間を作ってくれた。あと俺も診断してくれた。何か色々ペタペタ貼られたけど、そのお陰かだいぶ楽になった。
【笑星】
「簡潔に云うと、俺たち修学旅行なんだ。それで前からずっと行ってみたかった優海町に」
【杏子】
「……とんでもないタイミングで遊びに来るもんだな……」
【信長】
「すみません……」
【杏子】
「いや、まあ寧ろ人が外から来てくれることに飢えていた空気もある。優海町を中心とした南湘エリアがどれだけ孤立しているのかを皆痛感しているからな」
【笑星】
「ああうん、それは何か思い知った」
待合室……って云って良いのかな、老若男女関わらず俺たちは歓迎された。鞠会長から話を聞いててイメージには固まってたけど、来客というのはやっぱり常に珍しかったようだ。
おまけにこの心細い状況、誰かが来るという現象はとても嬉しいことなんだろう。昔の俺も、そういう経験があるし。
【深幸】
「でも、根本的な解決にはならねえよな……電磁波がヤベえ。通信機器が使えねえってのも厄介だが、もう「被爆」ってレベルなんだろ」
【杏子】
「私としては矢張り通信機器が使えない方が困るがな。お陰で外の状況も何も分からん。お前達が普通に元気に此処を訪れた、という情報が大変有難く思えてくるレベルでな」
【四粹】
「もう既に大輪大陸の大半の地域は、えっと……とある緊急組織の努力で物質的な復興を遂げている状態にあります。他大陸については無傷です」
【杏子】
「おいおい……こんなに苦労してるのは此処だけか……」
【深幸】
「助けようっていう動きは無いわけじゃないけど、MSBその他に妨害されてるらしいっす。俺たち此処入ってくるだけでも結構苦労しましたし」
【杏子】
「やっぱりあの時潰しておくべきだったか……ッ」
……女医にあるまじき怖いことを聞いた気がした。
【笑星】
「一応差し入れで、いっぱいアルス持ってきてはいるんだ。鞠会長が知り合いから託されたやつ。そんな感じの土産はいっぱい用意してるって……でも今はまだ“開封”できないって」
【杏子】
「砂川も来てるのか……それは驚きだな」
半分以上、無理矢理俺たちが連れて来た形だけど……。
【杏子】
「しかし、その判断は正しい。その有難い支援も、この電磁波の中では瞬時にしてゴミと化す。まずは電磁波を除去し、電波塔を建て直さねば話にならないからな。というか食糧と医療材料の方が欲しい」
【笑星】
「あ、それは俺らもちょっと持ってきた。10秒メシ的なもの箱でトラックに詰めてきたよ。今頃色んなところにコッソリ敵さんにバレないように配ってるっぽいけど」
【信長】
「それから……女潤の何処かと南湘地域の何処かを地下で繋げようってことにもなっているらしいです。ソレを使えば建築材も供給できると」
【杏子】
「なるほどな……アイツならそんな大規模な支援も不可能でない、か……どういう風の吹き回しだか知らんが、お外の恵みには舌を出し喜ぶ義務が我々にはある」
【笑星】
「鞠会長のことだから、勿論電磁波も除去しにかかるよ。俺らはどっちかというと、コミュニケーションしに来たって感じなんだけど。優海町のこと知りたいし」
【杏子】
「ああ、自由にするといい。先も云ったが……今この町の人々は町が焼け電磁波に塗れた今の状況に絶望し、一方で諦めず各々の方法でもがいている。そんな彼らの渇きに、少しでも附き合ってくれると非常に助かる。およそ修学旅行的ではないがな」
【深幸】
「いいっすよ別に。俺らも復興メインに捉えて来てるんで。役に立てんならウェルカムだ」
【杏子】
「……そうか。なら、まずは真理学園に周知してもらうのが効率的だ。生徒会長のことは、憶えているな?」
【笑星】
「亜弥ちゃん?」
【杏子】
「アイツらをまず訪ねるといい。役所並みに権限を持ってるから、色々便宜を図ってくれるはずだ。それに……今1番支えられるべきは、アイツかもしれない」
【笑星】
「え?」
【杏子】
「私はこの通り病人だらけで手が離せん。この町で何が起きたのかを聞くならアイツに頼むといい」
……亜弥ちゃんなら、井澤先輩の居場所も知ってるかもしれない。多分、あの2人って兄妹なんだろうから。
けど、美千村先生の云い方が気になった。
【笑星】
「(元気、無いのかな)」
もっと覚悟を据えて……俺たちは公民館を飛び出した。