10.10「朝」

あらすじ

「仲良くなることさ!! 皆でハッピーになる為に、現地の人と協力している状態を作ること!!」紫上会、真理学園の朝。出すべきキャラは出し尽くした感じなんですが、ここで有り得ない人達出そうと思います10話10節。

砂川を読む

Day

11/26

Time

9:00

Stage

空中歩廊棟 図書館連絡通路

【臥子】

「…………(ツヤツヤ)」

 臥子がツヤツヤしていた。

 知識のアップデートができてご満悦らしい。人格とでも云うべきものがあっという間に出来上がっちゃったなぁ。果たしてこの子は当初の設計通り、私の手に負える存在であり続けるのだろうか。

【笑星】

「お腹空いたなぁ……流石に」

【深幸】

「さっき10秒メシしたじゃねえか」

【笑星】

「何だろ、栄養は最低限確保したかもだけど食べた感じがしない」

【信長】

「ははは、それは分かるな」

【深幸】

「けどなぁ、ガツガツ食うのも躊躇われるよなぁ。食糧難の場所だし、図書館だし」

【鞠】

「…………」

 皆さん元気なようでよかった。

 私は寝ている間も穴掘りのエネルギー吸い取られてて正直かったるい。

 それと……

* * * * * *

【笑星】

「鞠会長のことを――幸せに、してみせる」

【3人】

「「「俺が幸せにする」」」

* * * * * *

 アレのダメージがまだ残ってるというか……。

 うん、暫く顔は合わせないようにしよう。

【凪】

「……で、今日は貴方、どうするつもりでいるの」

【鞠】

「ノルマである電磁波除去と電波塔再構成は済んだので、取りあえずトンネル掘りですか。もうやってますけど」

 食糧やお薬といった住民の健康確保に必要なものは一峰の方々が既にやっている。次私が担当するのは、女潤の我が別荘と彼園町付近を繋げること。コレ、結構危ない作業なんだけどね。地盤沈下とか起きたら南湘といえども甚大な被害になるだろうし。

 勿論その対策は常人には真似できないものをしっかり用意済み。私と臥子さえいれば人員は1人も要らない。

【鞠】

「ん……」

 アルスに着信が入った。

【鞠】

「もしもし」

【兵蕪】

「― おはよう鞠ちゃん。いや、もしかしてずっと起きてたのかな? ―」

【鞠】

「普通に寝ましたけど。おはようございます」

【兵蕪】

「― トンネル、無事開通したそうだよ。今から南湘に向けて、建築材を運ぶんだよね。何かサポートできることは ―」

【鞠】

「ありがとうございます。ここまでくればもう脅威ではないとは思いますが……引き続きMSBの相手と物資の確保に集中していただけると」

【兵蕪】

「― 鞠ちゃんはすっかり、トップの風格が出てきたねぇ。パパも引退の時かなー? ―」

【鞠】

「切ります」

【兵蕪】

「― ごめんごめん鞠ちゃん、怒らn ―」

 切った。

 ……そんなわけないじゃん、私はまだまだ知らないことだらけだし。

【鞠】

「トンネルもう開通したそうですね。臥子、物資運びに必要な機能やモデルをまとめてください」

【臥子】

「オーダー・アクセプト」

 臥子を抱きしめる。

【深幸】

「え、何してんの……?」

【笑星】

「鞠会長、やっぱり小さい子には優しいんだね」

【深幸】

「……璃奈は渡さないからな……ッ」

 周りの雑音を気持ちでシャットアウトして、集中する。

 ……臥子が必要と判断するモノを、頭が理解していく。

【鞠】

「トンネルは一方通行……大きさは控え目で、数は……」

 臥子から離れて、アルスのメモアプリを開いて次々リストにしていく。

【鞠】

「もう家々の建て直しに着手できそうです。地下の配管設備から確認する必要ありますけど」

【凪】

「どうなってるのよ貴方のペース。貴方1人で世界一の建築会社できるじゃない」

 正直自信はあるね、ソレ。

【四粹】

「しかし、町全体を建て直すとなれば、外に住民の皆さんが出ていると危険かもしれませんね」

【鞠】

「はい。その辺を周知する必要があります。もうアルスの配給が、生徒会を通じて各避難所にいってるんですよね」

【信長】

「はい、井澤さんが最優先すると仰っていましたから」

【鞠】

「なら連絡自体は簡単……問題は住民が云うことを聞いてくれるかどうか」

【深幸】

「抑も優海町の元の形とか、どうすんだよ。お前だって把握できるわけねえだろ?」

【鞠】

「いえ、それはもう終わってます。ていうかソレが出来ないなら大輪復興が抑も終わってないですから」

【深幸】

「……いや、確かにそうなんだろうけど、お前って俺と同じ種族なの……?」

 それについてはちょっと私も自信無くなってきてるけど、まあ考えても仕方無かろう。

 奴にも云ったことだが、利用価値があるなら利用する、偏狭な私には似合った活動方針だ。

 ……ただ、それは何もかもが一方通行のお節介で。

【鞠】

「1番の問題は、町民のこだわり」

【笑星】

「どういうこと?」

【凪】

「自分たちの町は自分で作る、此処の住民はそれなりにナショナリズム豊かなのよ。今までもそうしてきたし、奴らとの戦争にだって屈しなかった。私としてはくだらないと思うけど」

 「私の活動を受け入れない」可能性。

 余計なお世話は、過敏になってる神経を逆撫でしかねない。たとえ客観的に考えて極めて合理的で反対する意味が分からなくても、人間意地というものがある。私も数年優海町で過ごしてきたのだから、此処の人々がどんだけ根性あるのかぐらいは分かっている。

 ……あの人が居たなら、皆も納得してくれただろうけど。井澤先輩も今外に出れる状況じゃないみたいだし。

【鞠】

「んーー……」

【笑星】

「……取りあえず、外に出てみようよ。電磁波が蔓延してても裸で踊ってる人達いたし、今も誰かいるかも。意見聞いてみよ」

 ……雑務らしい始め方だ。確かに、実際今住民がどう考えているのか、何を優先したいかを調査しておくのは無駄ではない。

【笑星】

「ていうか、美千村先生に頼まれてるんだよね。折角外から支援しに来てくれたレアな俺たちが皆を励ましてやれって」

【信長】

「それなら、避難所を回った方が効率的ではあるな。会長のお知り合いがどんな支援をしてくれたか、実物を見ておきたいというのもある」

【鞠】

「此処も一応今避難所なのでは?」

【凪】

「生徒会主導のもと、上の階に移したみたいだけど。今じゃ1番危ないのは地下なわけだし」

【鞠】

「なら、まずはその人達に話を聞くのが……」

【笑星】

「あれ――?」

 雑務が、スケルトン趣向な空中歩廊の壁へと寄る。

【信長】

「どうした笑星?」

【笑星】

「何か……沢山人、外歩いてない……?」

【鞠】

「え?」

 私達も、外をのぞき込む。

 ……本当だ、大道路を多少人が歩いている。

 ソレ自体は別におかしいことではない。電磁波が除去されて、相対的に綺麗な空気になったお外を歩きたくなる気持ちは分からないこともない。ずっと避難所に籠もってるよりは幾分健康的だろう。

 ……ただ、それにしたってちょっと喧騒が過ぎる。これは違和感。

【深幸】

「皆テンション上がってるのな……」

 ストレス溜まってたんだろうか。

 いずれにせよ、外を出歩かれるとこちらの作業に支障がっ。

【笑星】

「先に外の人達から話聞いた方がいいかもね、会長」

【鞠】

「……どういう心理でいるのかを把握しておくべき、か」

 テンションの上がってる住民の相手をするのは嫌なんだけど……。

 やむなし、私達はなっがい歩廊を歩いて外に出た。

Time

9:30

Stage

学園大道路

【喧噪】

「「「いええぇええええええええええええいいいぃぃぃぃいいいいい――!!!!」」」

【紫上会】

「「「……………………」」」

 異常なサウンドが空に響いていた。

【臥子】

「すっかり皆、元気な模様。ふーは安心しました」

【深幸】

「安心通り越して不安になってくるんだが……何かの制御機構ぶっ飛んだんじゃねえのか……?」

【凪】

「割といつも通りよ。アリンコみたいな幸せ見つけたら漏れなく脱ぐ人達なんだから」

【深幸】

「それは、周りから距離取られて当然だな……」

【信長】

「ま、まあ楽しんでいるというなら何よりと思うべきか。しかし皆、何についてそんなに燥いでいるのか」

【四粹】

「普通に考えれば、電磁波の件でしょうが」

【笑星】

「或いは俺たちの支援全体かもね。あ、彼処の御輿に詳しいこと訊いてみようよ」

【人々】

「「「わーっしょい! わーっしょい! わーーっしょい!!」」」

 何で朝から御輿が罷り通ってるの。

【笑星】

「ごめんくださーーい。ちょっとお話――」

【六角】

「あっれ、堊隹塚じゃーーん」

【紫上会】

「「「何してるの!?!?」」」

 何で貴方が御輿の上に、いや抑も優海町に立ってるの!?

【四粹】

「ろ……六角、さん……? 何をして――」

【六角】

「皆、そこにいる少年少女こそがッ、我が紫上学園の英雄たち、紫上会だあぁああああああああああ!!!!」

【人々】

「「「いええぇええええええええええええええええええいいいいいい!!!!」」」

 話聴けッ!!

【信長】

「……道理で、何かこの喧騒っぷり何処かで聞き覚えがあるなって思ったわけだ……」

【深幸】

「え、じゃあ何、この喧騒って電磁波云々じゃなくて、アンタの仕業……? 何してくれてんの!?」

【六角】

「そっちの事情はよく分からないけど、俺は進路準備がもうキッチリ完成しちまったから暇で暇で。じゃあ退屈凌ぎに興味のあるとこでも旅しようかなと」

【四粹】

「相変わらず、行動力が擢んでてますね……」

【六角】

「そこの現会長様に比べたら可愛いもんだろー。なー??」

【凪】

「何あの男子、貴方の友達なの? なら私の代わりに殴りなさいよ」

【鞠】

「んな訳あるか」

 まさか優海町でも六角コールなるものを聞く羽目になろうとは。底知れない莫迦野郎である。

【鞠】

「……景観復興の為に、盛大に工事しまくろうと思ってるのにこんなに外を出歩かれたらできないじゃないですか」

【六角】

「ほう。流石会長、そこまで節介を焼くのか」

【信長】

「俺の知ってる貴方だって、やれるんだったらそこまでやるでしょう?」

【六角】

「だなぁ。でもソレをやるにしたって会長、まだ他にやることがあるだろー?」

【鞠】

「は……?」

【六角】

「仲良くなることさ!! 皆でハッピーになる為に、現地の人と協力している状態を作ること!! 勝手に工事なんてしちゃ皆、ビックリするだろー?」

【人々】

「「「ビックリするぜえぇええええええええええええええ!!!!」」」

【六角】

「それに倒壊していても家財はまだ中にある。絶対捨てたくねえってやつを各々回収してもらう時間を作らないと、寧ろ非情ってもんだろうよ。てなワケで、俺たちは今優海町と仲良くなって一緒に復興頑張ろーっていう空気の構築にあたってるわけだー!!!」

【人々】

「「「一緒に頑張ろうぜ、会長おおぉおおおおおおおおおおお!!!!」」」

【深幸】

「思いの外真面目なこと云ってるけど、服を脱ぐ必要は無いと思うんだ……ッ!!」

【六角】

「因みにそろそろ菅原が到着するそうだぜ。俺とアイツがいれば敵無しだ、任せとけ四粹! 前年度紫上会の専売特許、総てを和まし誤魔化す宴会ムードでお前らの復興活動を全面サポートしてやるぜえぇえええええええええ!!!」

【人々】

「「「六角ううぅうううううううううううううう!!!」」」

 宴会ムードを私達と結びつけんなッ!!!

 ていうかあの人来たら絶対お酒沙汰になるじゃんッ。ますますコミュニケーションどころじゃなくなる!!

【六角】

「HAHAHAHAHA!! 優海町、普通に良いところじゃねえかーーーー!!!」

 六角御輿、最初から最後まで裸漢なまま通り過ぎていった……。

【鞠】

「な……何てことを……」

【四粹】

「六角さん、今年も風邪を引くつもりですか……」

【笑星】

「うーーん……云ってることは正しかったような、気はするんだよねー……どうする鞠会長?」

【鞠】

「どうするって云ったって……あの人、人の話聴かないし……」

 ――って、ん?

* * * * * *

【六角】

「それに倒壊していても家財はまだ中にある。絶対捨てたくねえってやつを各々回収してもらう時間を作らないと、寧ろ非情ってもんだろうよ。てなワケで、俺たちは今優海町と仲良くなって一緒に復興頑張ろーっていう空気の構築にあたってるわけだー!!!」

* * * * * *

 俺たち・・……って。

【鞠】

「あの莫迦以外に、この町に来てる人がいる――?」

【深幸】

「え……?」

【四粹】

「――確かに、そうなりますね……菅原さんでしょうか。しかし彼女はまだ此処に到着していないようでしたが」

【鞠】

「ッ……」

【笑星】

「あ、会長!?」

 大道路を駆ける。

 もっと喧騒で溢れる場所へと。

 この朝この町に何が起きているのかを、この眼で確かめる為に。

【鞠】

「……ッ――」

 そして――

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