1.09「やりたいこと」
あらすじ
「やりたいように、やれ……か」砂川さん、吹っ切れるLv.1。これも今更ですが、砂川さんはよく考えるキャラなので何とか附いてきてほしい1話9節。
砂川を読む
【鞠】
「――何で、紫上学園は私を受け入れた?」
思い出す……
* * * * * *
【男子】
「聞いたんだけど……お前、真理学園出身って本当?!」
【女子】
「ソレ!! 私もソレ聞きたかった!!」
【男子】
「俺も!」
【女子】
「私もー!」
【秭按】
「……どうして、それを君たちが知っているの?」
【男子】
「ってことは、やっぱ本当なんだ……! いや、村田の持ってきた情報だからまず間違いないとは思ってたけど……!」
【秭按】
「……松井くん?」
【信長】
「……現紫上会の中に、その、お喋りな奴が居まして……昨日、そいつが会話の文脈に任せて暴露してしまった、といった感じです。悪気はある意味、無いとは思うんですが……」
【秭按】
「……なるほど、紫上会なら確かに、知っていておかしくないわね。だけど……真理学園で、どうしてここまで盛り上がって――あぁ、そっか……」
* * * * * *
【鞠】
「……担任は、知ってた」
つまり、私が真理学園出身であることを――当然ではあるけど――紫上学園は最初から認識していた。
【鞠】
「ッ――」
Stage
砂川家 ダイニングフロア
【鞠】
「パパ!!」
【兵蕪】
「おお! 鞠ちゃん、やっぱりお腹空いたんだね!! よし、今すぐ夕食を――」
【鞠】
「どうして私は紫上学園に転校することになったんですか!!」
【兵蕪】
「え?」
【鞠】
「元々何の関心も無かったから気にしたこともなかったけど、パパはどうして紫上学園を選んだんですか!!」
【兵蕪】
「い、いきなりだな……うーん、そうだなぁ、思いつく理由は複数あるよ。例えば、パパの親友が学園長をやっているから、とか」
【鞠】
「……コネ、ですか」
【兵蕪】
「……まあ、そうなるねえ。実際アイツは信用に値する、そんなアイツの所有する学園なんだ、それもまた信用に値するものの筈。実際視察して素晴らしい環境だと思った」
【鞠】
「……候補は、それ以外になかったんですか」
【兵蕪】
「何だ、もしかして、あの学園が肌に合わない? 流石に転校したてですぐまた転校は――」
【鞠】
「今私の関心はそこじゃないです。候補はそれ以外には?」
【兵蕪】
「……無いわけではなかった。けど、声は掛けていないね。恐らく断られるだろうなという予感や、コネ作りの濃厚な息の気配がした。だから、それらが一切無く、そして親友の経営している紫上学園が、最適解だった」
【鞠】
「…………」
つまり……
転校は、事態を何も好転させない、ということ。
【兵蕪】
「そ、そういえば鞠ちゃん、ちょっと気になってることがあるんだけど、出来れば優しい答えが嬉しいんだけどパパの顔見たく――」
【鞠】
「お話聞かせていただきありがとうございました」
【兵蕪】
「あっ、ちょ、鞠ちゃん!? 夕食はーー!?」
Stage
砂川家 鞠の寝室
【鞠】
「……一峰を継ぐには、傷の無い学歴の取得が必須……」
A等部卒業認定資格、という方法もあるけど、一峰の感覚だとそれは「傷」に見られる可能性がある。
普通のカリキュラムの学園を卒業した上で、大学卒業資格を取る必要がある。
つまり、今私が陥っている恐ろしい状況は、私に半ば約束されていた筈の道にまで影響を及ぼしかねない。
【鞠】
「……先輩の云ったように、何とかしなきゃダメってことだ……」
自分の生活を変えろ、と……まさか本番が来るだなんて……何すればいいんだろ。
【鞠】
「やりたいように、やれ……か」
私は、どうしたいのか。
いざそういうのを考えようとするのは、何か苦手だ。それは昔からのこと。だって、考えなくたって、私に必要なものは全て、在ったんだから。
それが私の道なのだから、いまいち、よく分かんないのだ。
……強いて、欲しいと思ったのは……
【鞠】
「――結局、手に入らなかったじゃないですか」
一方は勝手に手から零れて。
一方は、自分から手を離して。
私は地味に才能を持っているけど、ソレだけは、きっと才能が皆無。
そんな私に、なおも強要するのだから、なかなか酷い先輩だ。
【鞠】
「……先輩……」
会いたい。
今でも、そう思える。私にとって……大切な――
* * * * * *
【冴華】
「そうそう……真理学園はまともに勉強もできない屑しかいないって聞きました」
【鞠】
「――!!」
【冴華】
「貴方のテスト結果で、まだ遊べますね……♪」
* * * * * *
【鞠】
「……………………」
――復活する、沼の奥のように、黒く澱んだ感情。
* * * * * *
【男子】
「おい……アレじゃね? 真理学園の奴って――」
【女子】
「アレよね? 真理学園から来た女子……」
【女子】
「ヤバっ真理学園の……」
【男子】
「なあ、砂川! 真理学園のこと、教えろよ!」
【女子】
「でも、開かれた場所、だったとしても……それはそれで、ねえ……怖いというか」
【女子】
「ニュースで見たんだけど、すっごい治安悪いしそもそも町政がなってないって本当? どんな感じだったの?」
【男子】
「ひそひそ(いや、普通じゃないから優海町は毎度毎度……)」
【女子】
「ひそひそ(アレじゃない? 更生手術とか何とか聞いたことあるし、更生して、別の町に逃げた子、なんじゃない?)」
【女子】
「ひそひそ(はぁ、なるほど更生ねー……まぁ私なら絶対、そんな怖い町、嫌気差してすぐ逃げるわねー)」
* * * * * *
……そうだ、一つ。
一つ、明確にあるじゃないか。
* * * * * *
【冴華】
「死神に、誰も近付きたくないですものね。私も正直、近付きたくないとも思ってます、楽しい獲物にはなりますけど、もう充分楽しんで、恐らくピークも越えましたし。だから、もう来なくて結構ですよ? 野蛮で道徳の壊れた、イカレた学園の産物など、紫上に居てほしいとは思いません。当然でしょう?」
* * * * * *
凄く、辛くて。
そして同等に……いやそれ以上に――
【鞠】
「許せない……感情……」
輪郭が――私に、姿を現した。
【鞠】
「先輩を……私の、“大切”を……」
何にも知らないで、汚す言葉を吐く――
汚れた奴らを。
許せない感情は。
私の「やりたいこと」に、該当するのだろうか。
* * * * * *
【先輩】
「― 砂川の不満は、砂川の想いは、究極的には砂川にしか分からない。他人の言葉はどう足掻いても推測でしかないよ。だから、砂川自身でしっかり整理し洗い出し……ソレを殺すしかない ―」
* * * * * *
……整理、しなきゃ。
私の心を。私が守りたいものを。
私が嫌なものを。私が殺したいものを。
【鞠】
「…………」
* * * * * *
【秭按】
「本日のスケジュールは以上です。当然皆さんは分かっているでしょうが、全学年統一実力試験は今週の土曜日に控えています。最後まで、気力を尽くして勉強に励むように。……それでは、ごきげんよう」
* * * * * *
【冴華】
「そうそう……真理学園はまともに勉強もできない屑しかいないって聞きました」
【鞠】
「――!!」
【冴華】
「貴方のテスト結果で、まだ遊べますね」
* * * * * *
【鞠】
「……屑……先輩のことを……アイツは――」
アイツだけじゃない。
大半の奴は、そういったことを思っているんだろう。
【鞠】
「ッ……ッッッッッ――」
砕けそうなほどに、歯を食いしばる。
足りず、両手を握りしめる。肉に食い込んだ爪が、赤く染まる。
痛い。
痛い。
痛い――
【鞠】
「……コレが、私の……やりたい、こと――」
仮に失敗したって、構うことはないよね……先輩。だって――
彼らは、私にとって“敵”なのだから。