1.08「先輩」
あらすじ
「先輩……悪党っぽいんですけど」砂川さん、早速崖っぷち。今更ですが、真理学園というワードは今後も滅茶苦茶大事なものになってくるので覚えててほしい1話8節。
砂川を読む
Time
20:00
Stage
砂川家 ダイニングフロア
【パパ】
「……鞠ちゃんは、本当にご飯を食べないつもりなのかい汐ちゃん……?」
【汐】
「はい……恐らく、あの雰囲気がずっと続いてるのであれば。誰の顔も見たくない、と云ってましたし」
【パパ】
「パパの顔も?」
【汐】
「兵蕪様のお顔は、今日に限らず見たくなさそうな顔をしてますよ?」
【兵蕪】
「えっ、本当に!? ソレはもっとショックな事実なんだけれど汐ちゃん!?」
【汐】
「はぁ……心配です、鞠……一体、学園で何があったのでしょう……」
Stage
砂川家 鞠の寝室
――世間一般にとって、かつての私の生活場所だった真理学園という場所がどのようなイメージであるのか。自宅通いであり、別荘が離れた地区にあった私は、例外的に知ることができた。
非文明的で、野生的で、いっそ原始的な学園。
経済的にも政治的にも自己完結した事実上の鎖国国家。
M教主義の学校でありながら、他の学園から総バッシングされるほどに異端で有害な教育。
何か、兵器を密造し隠し持っている。
身寄りのない子どもを集めて都合の良い兵隊を作っている。
淫ら。
裁きの災害が下った場所。
優海町はあの学園長が統率し、グローバルな世の中に反して地域の中で只管何かを追究している。あの学園長が指揮していて怖いから、大輪の他地区は寄り付かなくなり、情報も秘匿にしがち……そんなんだから……私もハッキリ云っちゃおう、そんなんだから、あることないこと尾ひれ、自由に飛び交ってしまっているんだ。
* * * * * *
【男子】
「おい……アレじゃね? 真理学園の奴って――」
【女子】
「アレよね? 真理学園から来た女子……」
【女子】
「ヤバっ真理学園の……」
【男子】
「なあ、砂川! 真理学園のこと、教えろよ!」
【女子】
「でも、開かれた場所、だったとしても……それはそれで、ねえ……怖いというか」
【女子】
「ニュースで見たんだけど、すっごい治安悪いしそもそも町政がなってないって本当? どんな感じだったの?」
【男子】
「ひそひそ(いや、普通じゃないから優海町は毎度毎度……)」
【女子】
「ひそひそ(アレじゃない? 更生手術とか何とか聞いたことあるし、更生して、別の町に逃げた子、なんじゃない?)」
【女子】
「ひそひそ(はぁ、なるほど更生ねー……まぁ私なら絶対、そんな怖い町、嫌気差してすぐ逃げるわねー)」
* * * * * *
だけど……
それでも……それでも……――
【鞠】
「私っ……辛くてぇ……!!! あんなこと云われるの、えぐくてぇ~……!!!」
【先輩】
「― お、おう…… ―」
地獄のような昼間の出来事を……そこで溜まりに溜まった、私の感情を……
耐えきれず、私は通話して先輩にぶちまけていた。
【鞠】
「ぜんばい゙~~……もう、嫌ですーー……」
【先輩】
「― まあ、うちの学園から転校する奴は、夜逃げを考えなければ多分お前が初だからなぁ。云ってしまえば外の奴らからすれば珍しくて突きたくて仕方無いんだろうなぁ。村田って子は多分うちのネサフィ担当と気が合いそうだ ―」
【鞠】
「何で平然としてるんですかー……!!(怒)」
【先輩】
「― 何故俺に怒る ―」
……この声だけは。
いつでも、聞きたい。できることなら、いつまでも……
聞いていたいし、見ていたかった。
【先輩】
「― つってもなぁ……俺がそっちの全く関係無い学園に手を出すのは論外だし、真実かどうかの確かめようがない情報に踊らされちゃう人達の気持ちも分からなくないし……何より ―」
私の知る限り、誰よりも強くて、誰よりも博識で……
【先輩】
「― 砂川が、やりたいようにやればいい話だと思うし ―」
誰よりも、私に優しくしてくれる人だった。
【鞠】
「……私、の?」
【先輩】
「― 村田さんは結構良いことを云ってるぜ。正義なんてものは所詮押し付け合いだ。正解なんて保証は、そう簡単に得られやしない。だから押し切れる……強い奴が、正義になる。それが現代社会の一理だろうよ ―」
【鞠】
「先輩……悪党っぽいんですけど」
【先輩】
「― 悪党だろ? そして、俺は事実上正義だ ―」
【鞠】
「……ですね」
どうしたらいいのか分からない、底なし沼に堕ちるような地獄の心が……
少し、分解されているような気がした。
【先輩】
「― 砂川は、どうしたいんだ? ―」
【鞠】
「どうしたいって……急にそんなこと、云われても」
【先輩】
「― お前が何かに対し辛くなった。それはすなわち、何か不満ごとがある。お前をそこまで過ごしづらくさせる、見過ごせない不満が ―」
【鞠】
「不満……そんなの、当たり前じゃないですか」
【先輩】
「― 砂川の不満は、砂川の想いは、究極的には砂川にしか分からない。他人の言葉はどう足掻いても推測でしかないよ。だから、砂川自身でしっかり整理し洗い出し……ソレを殺すしかない ―」
【鞠】
「さらっと怖い云い方しないでください……」
【先輩】
「― 怖いことかもしれないが、お前はそれぐらいでいった方がいいかなと。何せ、俺の忠告も無視してずっっっっと図書館に引き籠もってたんだからな。良い機会だ、ここで荒療治しとけ ―」
【鞠】
「ちょっ……!」
【先輩】
「― 俺から云えることは以上だな。んじゃ、そろそろ妹に変な勘繰りされるかもなので切るなー ―」
……切れた。
【鞠】
「引き籠もっては、ないでしょ……先輩に云われて、結局色々教えてもらいましたし……」
でも何で殺気の出し方まで教えてもらっちゃってるんだろう私……。そんなの、使わないでしょ……。
先輩は私のことを心配して、というか私の生き方が気に入らなくて、事ある毎に私を外に引きずり出そうとした。元々幼少から習い事は沢山こなしていたのだから、才能開発なんて要らないのに。
私には、とっくに進む道が用意されている。なら、そこを進めばいい。周りに立つ人達は皆、私には既にその道を進めるだけの能力があると評価しているのだから、私は迷うこともない。
……今、私はどの過程で、躓いているんだろう。
【鞠】
「ぶっちゃけ、紫上がダメでも、それは重大な問題ではない筈」
流石に大卒に到達していない学歴は困りそうだけど、紫上以外にも学園は沢山ある。あの女子も、転校手続きは任せろとかそんなことを云っていたから、私を受け入れようとするなら、転校は可能。
……………………。
私を受け入れようとするなら。
【鞠】
「――何で、紫上学園は私を受け入れた?」