1.20「砂川、座す」
あらすじ
「んんんんんんんん――!?!?」砂川さん、座します。タイトルの通りです、座しちゃう1話20節。次から2話です。
砂川を読む
Day
4/10
Time
7:00
Stage
砂川家 ダイニングフロア
【市鴎】
「おはようございます、お嬢様」
【鞠】
「……おはようございます」
別に私なんかの為だけに挨拶待機しなくてもいいのに。無駄に重苦しい。
【汐】
「鞠ー、朝ご飯の試食は私がバッチリしときましたよー(もぐもぐ)」
そしてその空気を見事相殺するこのメイド擬きは今日も平常運転のようだった。できればもっと安全運転を心懸けてほしいところである。
【汐】
「うんうん、今日も市鴎さん渾身の焼きたてパン美味しー……マーガリンもっと多めだと私好みだけどー」
【市鴎】
「かしこまりました」
【鞠】
「このままでいいです」
【市鴎】
「かしこまりました」
このメイドは、何故かパパに物凄く好かれている。それもあってか、この砂川家の従業員の中ではお偉いさんなポジションに立っているらしい。何て可哀想なエリート達。
何となく、このメイドのナチュラルな忘却を放っておくといつか従業員の中で革命活動が起きるんじゃないかと察した私は、さり気なく従業員たちにアフターサポートして労働ストレス解消に尽力している。お嬢様と云われているが、私もまたこの家で働いてる人間になっていた。どういうことだろう。
【汐】
「それにしても、本日は少し早い登校なのですね」
【鞠】
「待ち合わせが発生したので」
【汐】
「……それって、昨日鞠を襲った不届き者ですか……?」
ざわっ。
砂川家を揺るがす大事件の香りに周りで立っていた従業員の方々がどよめく。
【鞠】
「何か私に伝えたいことがあるようなので」
【汐】
「お姉ちゃんは認めません――!!」
【鞠】
「私にお姉ちゃんは居ないので問題ありません」
というか私も先輩に鍛えられて、一応護真術は身に着けている。例え何かの過程で実力行使に出られても、危機回避ぐらいは一人でできる……筈。
そんな、益々騒ぎになることは勿論やりたくないけど。
【汐】
「……鞠、提案なんですけど、ちょっと予備の制服を貸していただけませんか――」
【鞠】
「附いてくるのは却下です」
実力試験には、まだ何か秘密がある。勝者の私には、知らなければいけないことがある。
それを云うあの人は、本気だ。
Time
7:45
Stage
霧草区
【鞠】
「ここで結構です」
【汐】
「ま、待ってください鞠、車停めてくるので――」
未だ附いてきそうなメイドを振り切るように、車を出て歩き出す。
だいたい、8時前後の到着になるだろう。
【鞠】
「……今日、天気悪いな」
雨とか降りそうな、厚い雲が大陸を覆う。昨日は晴天だったのに。
……景色は準備オッケー、ということだろうか。
勝者の私を……揺るがすほどの、何かが?
【鞠】
「……いやいやいやいや――」
Time
8:00
Stage
紫上学園 正門
いやいやいや、と首を振っているうちに、遂に着いてしまった。
正門。
いつもはこれを通った後に誰かが私に体当たりしていた気がするが、今日はその開いた門に寄りかかって誰かを待つ男子がいた。
その男子が、私を見る。
【深幸】
「……よう。来たな芋女」
【鞠】
「…………」
間違いなく莫迦にしてる呼び方ではあるが、その表情は寧ろ不機嫌に見える。私もどちらかといえば不機嫌だ。何で朝っぱらからこんなチャラ男と待ち合わせしなきゃいけないんだ。
……なんて思ってても何も進展しないので、ここは大人しく合流する。
【深幸】
「附いてこい」
【鞠】
「何処に?」
【深幸】
「7号館。つっても、外観を見るだけでいい」
ならわざわざナビゲートしてくれなくてもいいじゃん。普通に毎日通ってるようなものじゃん。
とか思うけど、どうせそういう問題じゃないのだろう。今日、その7号館の外観に何かが起きている。
そこに……私が、関係している、といったところ……
【鞠】
「いやいやいやいや……」
【深幸】
「いやいやじゃねえ! 現実を受け止めろ莫迦野郎!!」
酷い云われようで、手を引かれ強引に早歩きで、学園を進む。
6枚の花弁の建物。
その中央に立つ……円柱型の、寧ろタワーと表現したくなる建物。
職員室があるくらいしか私は知らないが、そんな場所に何故か人集りができていた。
【信長】
「お……深幸……に、砂川さん!?」
【深幸】
「よう信長。莫迦連れてきた」
何か掲示でもされているのだろうか――と思った矢先、私は即行で気付く。
【鞠】
「――ん――?」
【笑星】
「あっ、先輩だ! おーーーい……お、今日は逃げないな」
【邊見】
「おはようございます~……あれ~? そっか、今日だったか発足~」
確かに、掲示されていた。
されていた……が……
【鞠】
「……んんんんん~~――????」
【四粹】
「……! 砂川さん……!!」
【信長】
「玖珂先輩、おはようございます……それで、どうして深幸は砂川さんと一緒に?」
【深幸】
「……知らなかったんだよ、コイツは……知らされて、なかったんだ……」
【四粹】
「ああ……矢張り、そうだったのか……」
【信長】
「……知らなかった……って、まさか……!? 砂川さん、知らなかったのか!?」
【笑星】
「? 何の話――ってうわ、凄えぇええ……!!」
それは近付いて見るのではなく、遠くからでも眺められるような設計。
人々が見上げるように。
誰がこの学園の上に立つ者なのかを知らしめるかのように。
でっかく、刻まれていたのだ。
――勝者の、名が。
【笑星】
「俺の名前、でっか!! すっかり有名人じゃん……」
【邊見】
「よかったね~えっちゃん。これでれっきとした、紫上会の一員だよ~」
役職名と共に。
【鞠】
「んんんんんんんん――!?!?」
【四粹】
「……実力試験の総得点は、学年毎に順位をつけられます。そのうち、1年の部と2年の部では、上位者には相当の立場が与えられるようになっているのです」
【信長】
「1年からは上位2名、2年からは上位3名が、選出され……発表式を通して皆に知らされるんだ……誰が、この学園の強者であるのかを」
【深幸】
「そして紫上学園にとって強者は正義で、故に強者は上に座すべき人間……だから、2年の部において最優秀成績を叩き出した覇者は、問答無用で座ることになるんだよ……様々な恩恵を手にして――」
【深幸】
「紫上会の――紫上学園の会長の座になぁ!!!!」
紫上会会長――砂川鞠。

