1.15「覇者」
あらすじ
「実力試験――究極の勝者――“覇者”はッ!」砂川さん、ウォーキングします。表彰を受けた時まず考えるのは、私の場合は「何かふざけた方がいいのかな」と観客を気にする1話15節。
砂川を読む
【六角】
「……さて。学園長から有難いお話をいただきましたが……」
拍手が止みある程度会場が落ち着いたところで……
会長が、何故か1発深呼吸を挟んだ。
【六角】
「一つの事実に気付いて、全然話が頭に入らなかった人達とか、居るんじゃないかなー? 正直俺も、結構ビビってるんだけどさ」
【宮坂】
「ふふっ……動揺する目を沢山発見できたな。そして私もこのデータを見てから、内心未だに動揺しているところがある」
ん……?
【宮坂】
「私が、「分岐点」に思いを馳せることになった原因は、もう一つあるんだよ。それも……この表に大きく、出ている」
【六角】
「まず、2年の最高得点の列を見てほしい」
【笑星】
「え……? お、おわあぁああああああ!? 凄え、誰かしらが100点取ってる!」
【邊見】
「……今、気付いたんだえっちゃん?」
【六角】
「そう、3年ですらようやく数学Ⅰで100点満点出した奴が居るわけだが、なんと2年は全ての科目で、誰かしらが、100点満点を叩き出してるわけだ。もうこの時点で驚愕というか、3年のプライドがズタボロなわけなんだが……一番下の、総得点データの最高得点をみてくれ」
【六角】
「この意味、分かるか君たち……?」
【笑星】
「ん……? つまり、どういうこと邊見?」
【邊見】
「うーんと……えっちゃん、ちょっと科目の数、数えてみて~」
【笑星】
「え? 科目の数? 何で?」
【邊見】
「いいからいいから~」
【笑星】
「えーっと……いち、に、さん、し……」
【邊見】
「……………………」
【笑星】
「15個だな。で?」
【邊見】
「じゃあ、1科目の満点って、何点?」
【笑星】
「100点」
【邊見】
「じゃあ、仮にその15科目、全部で100点取ると、合計何点になる~?」
【笑星】
「え? そりゃ……1500点でしょ――」
【邊見】
「……………………」
【笑星】
「1500点!?!?!?」
【六角】
「さあ、気付いたか諸君! そうだ、さっき俺は「2年は全ての科目で、誰かしらが、100点満点を叩き出してる」と表現したが、正しくは、こうなんだッッ!!」
会長、マイクハウリングを気にしない本日最大音量による叫び。
【六角】
「2年の中に、全ての科目で100点満点を叩き出した怪物がいる――!!!」
案の定、盛り上がる盛り上がる……といってもさっきまでの熱狂とはちょっと性質が違うようだけど。一言でいうなら、動揺、が一番しっくりくる。
【男子】
「ま、松井……!? 松井なのか!?」
【信長】
「違う……俺は、少なくとも3系統、問題に全く手を着けていない……」
そして、犯人捜しが始まる。
【女子】
「まさか……村田……?」
【冴華】
「……違います……私では、有り得ません……いえ抑も、有り得ません! だって、それはつまり、1系統1時間程度費やすものを、4系統2時間で全て完璧に解答するということ……そんなことできる学生が、この紫上学園に居るはずがありません!!?」
だけど、見つからない。
見つかるわけがない。
【深幸】
「……勿論、俺なワケないし……信長も村田も、科目をある程度絞ってる……だが、俺たちじゃないとしたら、一体誰だ? そんな無茶苦茶な解答の仕方する奴、2年に――」
* * * * * *
【冴華】
「おっと蛮人ちゃん、お疲れ様でした。暇な時間をどうお過ごしでしたか?」
【鞠】
「……………………」
【深幸】
「めっっっちゃ疲れてるのだけは分かるなぁフラフラしやがって、てか何で暇な奴がそんな脱力してんだよ。そして当然のようなガン無視、友達できねえぞ芋女」
* * * * * *
【深幸】
「――あの、疲れ方……まさか――」
何故なら。
【六角】
「さあ、お待たせ諸君――!! この発表式、最大のイベント!! 実力試験“勝者”の、発表だあぁあああ!! 学園長、お願いします!!」
【宮坂】
「うむ……できるだけこちらも声を張り上げるが、可能な限りの静粛をお願いしよう!」
お前たちは、知らないから。
【六角】
「では、まず1年の部!! 総得点ワンツーの2人発表!!」
【宮坂】
「――堊隹塚笑星!! 邊見聡!!」
【笑星】
「え……? お、俺!? ほんとに――俺……?」
【邊見】
「うんうん、おめでと、えっちゃん~(でも全体の空気は、祝福どころじゃないよねぇ~)」
【笑星】
「……………………」
【六角】
「続いて、2年の部!! 総得点3位と2位の発表!!」
【宮坂】
「……――茅園深幸!! 松井信長!!」
【深幸】
「んお!? お、俺か……!」
【信長】
「…………」
先輩を。あの人たちを。知らないから。
あの場所を知らないから。あの日々を知らないから。
【宮坂】
「先に3年の部を発表しておこう、総得点3位、菅原二葉!! 2位、玖珂四粹!! 1位、六角碧叉!!!」
【六角】
「へへ、やったぜ。でもそれよりも……さあ、お待ちかね……2年の部1位――すなわち、実力試験最優秀得点者。究極の、“覇者”の発表!!」
【宮坂】
「……おや? ふふっ……なるほど、既に担任から結果は聴いている手筈だったな。まさか先手を打たれるとは思わなかったが」
【六角】
「ん――?」
別に、知らなくたっていい。他人の大切なモノなんて、他人にはどうでもいいことだ。
だから、私だって、どうでもいい。私は私の、目の前にある道を行けばいい。
【宮坂】
「実際に会うのは、初めてか。ようこそ……ここが、紫上学園だ」
勿論、敵が居たなら……容赦無く潰して。
【六角】
「君は――」
【鞠】
「……表彰状とか、あるんですよね。私のクラスの座ってる場所、遠かったので」
少しずつ……ステージに上がる私に気づいた視線が、増えていく。
数百の視線。4桁に及ぶかもしれない瞳が、背中を見る。
もうここまで来ると、逆に冷静になるというか。多分吹っ切れてるとかそういう形なんだろうけど。
【鞠】
「“勝者”の私は、早く帰りたいので」
【宮坂】
「フッ……おかしいな、話が違うぞ彼奴め……」
本当ならもっとゆっくり厳かに受け取るべき、というか指示が来るまで席で待機しておくべき、そんなガチの表彰を何もかも早送りで受け取り、踵を返す。
階段を降りる。
当然今度は、私の視界に多方位多数の目が映る。
【四粹】
「…………」
その目を持つ――
【笑星】
「あ……あの人って……邊見!!」
【邊見】
「うん……間違いないよね」
私を見る――
【冴華】
「――莫迦な――そんな、莫迦な、ことが――」
私たちを穢す――
【深幸】
「……マジか……」
野蛮な貴方たちは――
【信長】
「砂…川……さん?」
――敵だ。
【宮坂】
「実力試験――究極の勝者――“覇者”はッ!」
ならば怯えるまでもなく、普通に歩いていけばいい。邪魔なら、踏みにじればいい。
この足は今――“覇者”の足なのだから。
【宮坂】
「2D、砂川鞠――!!!」
喧騒と混沌に見向きもせず、向かうのは真っ直ぐ……その先の、ホールの出口。
……まあ、こんなに目立ってしまったわけだから、流石に少しは予感も入ってくる。出口の先には、もしかしたら――
別に求めたわけじゃない、主役の顔じゃない、この私の新しい日々があるのかもしれないな……と。