1.13「実力試験、開幕」
あらすじ
「勝ちとか負けとか……何なんだろ」砂川さん、実力試験をやり通します。1日に9時間も使う試験はちょっとノーサンキュー過ぎる1話13節。
砂川を読む
【秭按】
「実力試験の概要確認をします」
残り30分は、純粋な勉強時間というわけじゃないようだ。先生が説明を始めた。
【秭按】
「まず、実力試験の科目は、言語、文学3系統、数学3系統、社会科4系統、理科4系統で、その出題範囲は全て、主催のA等3年の部のそれに準拠しています。出題の形式も同様です」
つまり、普通に考えて2年のド頭で受ける難易度じゃない。だけど多くの人は、何かに釣られて本気で受けに来ている。結果的に私もその1人になってる。
【秭按】
「得点は全て100点満点。大学受験の際には選択科目という概念がありますが、この実力試験では全ての科目を全ての学生が受けることになります。それらの得点がどのような意味を持つのかは……実力試験の結果の活用の仕方次第、となりますのでここでは割愛します」
ここでは全教科受けさせられるけど、別に全部の科目が優秀である必要は当然無いと。まあ、そりゃ文系理系という概念があるし。文系一本の人が理科科目で高得点を取る必要は無い……奨学金制度でも、そこは考慮される筈。
とはいえ全教科というのは矢張りここのオリジナル。第一印象は、一体いつになったら帰れるんだろうという感じだ。
【秭按】
「スケジュールですが……」
回答が来た。
朝から始めて夜に終わる試験というのもなかなか無い気がする。
しかしこれでも、言語以外の科目すべて時間が短い気がする……まあ、どの科目のどの系統で得点を狙うかは各々の都合に合わせろいうことだし、スケジュールの時間の取り方から考えても選択分野の選定は暗黙の了解だろう……しかし私は特にそういう選択の都合および意思は持たない。
【秭按】
「では――解答用紙および問題用紙は全員に行き届いていますね? ご武運を祈ります」
つまり……今からやるのは、先輩流。
【鞠】
「(全部、解く……!)」
【秭按】
「言語試験――始めっ!!」
……。
…………。
……………………。
【秭按】
「――解答用紙、全て回収確認しました。実力試験のスケジュールは以上となります。大変お疲れ様でした」
【鞠】
「……………………」
【秭按】
「19時を回っていますので、寄り道などせず速やかに下校するように。以上」
……………………終わった……。
シャーペンを持つ握力も残ってない……。これはこれで凄い体験かもしれない。それともただ単に私が貧弱というだけだろうか。
実際、周りは笑える程度には力が残っているようだし。
【安倍】
「ッ――終わったーーーー……!!」
【女子】
「ケツ痛い~~……!!」
【男子】
「どうだったよ今回。俺案外自信あるんだけど」
【男子】
「えっ、何でお前が自信あんの? 今回捨ててなかった?」
朝の張り詰めていた空気は何処へやら……戦場から元の教室に戻りつつあった。
……また変な視線来る前に、さっさと帰ろ。
【深幸】
「信長あぁあああああああ!!」
【冴華】
「元気有り余ってますねえ茅園は」
即刻帰ろ。
【冴華】
「おっと蛮人ちゃん、お疲れ様でした。暇な時間をどうお過ごしでしたか?」
【鞠】
「……………………」
【深幸】
「めっっっちゃ疲れてるのだけは分かるなぁフラフラしやがって、てか何で暇な奴がそんな脱力してんだよ。そして当然のようなガン無視、友達できねえぞ芋女」
【信長】
「砂川さんを帰らせてやれ。そしてお疲れ、深幸」
【冴華】
「私にはねぎらいの言葉は無しですか、松井?」
【信長】
「……手応えは?」
【冴華】
「ふっふっふ……あーーっはっはっはっはっは!! 今年度も、私は強者として立ち振る舞ってみせましょう!」
【深幸】
「チッ、絶好調だったか。因みに俺は超超超絶好調だったぜ。村田、お前にも負けねえからな! あわよくば、俺がトップ――いや……信長はどうだった? 一位候補第一位よ」
【信長】
「全力を出し切った。勿論、全学生に……玖珂先輩にも勝つつもりでな」
【深幸】
「確実に、俺たちのうち1,2人は勝ってるな……そんな気がする」
【冴華】
「だとしたら負けたのは茅園ですね」
【深幸】
「うっせ、お前が負けてろ。俺の好調なめんな」
……どうやら私はもう意識の外になっているようだ。有難いから、そのまま帰る。車を呼ばないと。
【深幸】
「…………?」
Stage
1号館 2F廊下
――それにしても。
【鞠】
「勝ちとか負けとか……何なんだろ」
あの人たちの会話に、何やら疑問が浮かんだ。意味が分からないというか……それ以上を考える余力も、それを振り絞ろうという心も無いので、どうでもいいのだけど。
取りあえず、帰ってもう寝よ……明日は日曜日だし、ゆっくり休もう。
――来週の私は、どうなるんだろう――
