10.12「エピローグ」
あらすじ
「それでは平保31年度、3学期実力試験結果発表式を始めます」紫上学園、まだまだ高みへ。ここにきて新事実も発覚する10話12節。『砂川見聞録』、これにて綴じさせていただきます。全部読んでしまった猛者の方々も諦めた方々も、その眼が良き道を映しますよう作者はベッドの上で祈ります。
砂川を読む
* * * * * *
【兵蕪】
「――どうしてだ?」
【市鴎】
「…………」
【兵蕪】
「市鴎、どうしてだ? どうして編是が、死ななければならなかった……?」
【市鴎】
「…………」
【兵蕪】
「編是は、4日前まで、元気に笑っていたんだ……私の前で。この子の為にと、健康にも非常に気を遣い、実際医者たちも揃って褒めていたではないかッ、なのに――」
【市鴎】
「兵蕪殿」
【兵蕪】
「出産は確かにッ、生命に関わる楽観視のできない活動だ、だがそれを乗り越えて子を育て続ける、彼女が求めていた幸せを抱く母親はッ、一体この世に何百万居ると思う――!!」
【市鴎】
「兵蕪殿ッ!」
【兵蕪】
「…………市鴎……教えてくれ……彼女を、殺してしまったのは誰だろう。手術を担当した医者たちか? 或いは、根本的に……彼女を最も愛してしまったこの私か――?」
【市鴎】
「…………」
【兵蕪】
「主は、私を戒めたのだろうか。私の為すべき第一の使命を、見誤るなと」
【市鴎】
「……何処に行かれるのですか」
【兵蕪】
「後は、任せたよ市鴎。時間だ……私は……毘華に渡らねばならない。沢山の難民たちが、一峰の仕事を待っているのだ」
【市鴎】
「この子は、どうするおつもりですか! 今貴方が離れて、母を失ったこの子は――」
【兵蕪】
「2度も、云わせないでくれ。任せたよ、市鴎――」
【市鴎】
「兵蕪殿……貴方は……」
* * * * * *
【???】
「……酷い人。こんな人がパパなんだって、娘さんが気付いてしまったなら、どう思うんだろう。散々、愛していると、家族が大切だと大々的に唱えておきながら、唯一血の繋がっている娘のことを捨てて。ねえ……貴方は、どう思うのかな? 同じく嘘つきの――縁結びの守りヌシ様?」
【ババ様】
「……ババ様は何か、お前さんに嘘をついたかの」
【???】
「特には何も? でも、確実にあの子には嘘をついたよね。このお姉ちゃんのことを、話さなかった」
【ババ様】
「…………」
【???】
「あの子はね、過剰に嘘を嫌う。嘘つきを恨む。嘘つきの所為で、あの子は生まれた時から、不幸だったんだから」
【ババ様】
「……この映像は……この記憶は、誰のものなんじゃ。まさか……」
【???】
「鞠ちゃん以外に有り得ないでしょー? 正直、お姉ちゃんもコレ知って結構愕然としたんだよねー。でも、妙に納得した……ああ、だから鞠ちゃんは、ああなんだって」
【ババ様】
「赤ん坊の頃の記憶が、しっかりと残っておるのか」
【???】
「珍しいことに違いないけど、全く有り得ないわけではない。お母さんの胎内に居る時から、子は色んなことを知る。お母さんの、お腹を撫でる振動。お父さんの撫でる振動。近付く耳。想い合う夫婦の約束。それが、子の根底の記憶として、沈殿しながらも確実に存在する」
【ババ様】
「……鞠の……記憶」
【???】
「でも、それは云い換えれば、その夫婦の絆の結果が総て子に反映されうるということ。悪いことはできないよねぇ、互いを罵り合い、殺意を毎日口に出していたお母さんから生まれた子の肌が随分ドス黒かったっていう話もあるくらいだし」
【ババ様】
「何が云いたいんじゃ」
【???】
「鞠ちゃんは、きっと最初はとても楽しみにされていた。でも、出産とほぼ同時に、要らない存在に見られちゃったんだ。それを……鞠ちゃんは心の奥底で分かっている」
【ババ様】
「躻めッ、要らない子などおらぬ。人が生命は総て、あるべくして誕生しあるべくして縁に繋がり幸せを育んでいく、ソレが摂理じゃ」
【???】
「それはミマの中だけの摂理。ババ様が知らなくても仕方無いとは思うけど、今の世界はもう、いや……まだ、って云うべきかな、そんな好いものじゃないんだよ」
【ババ様】
「…………」
【???】
「あの子は、平穏になっちゃいけないんだよ。それは、嘘つきの最低な父親に、最後まで利用されて終わることを意味する。貴方が期待するような幸せを得ることもなく、機体のように働き続けるだけの、便利で価値のある道具と成り果てる。そんなの……絶対にお姉ちゃんは認めない」
【ババ様】
「……だから、掻き乱したのかの。あの子の、過去を……かつて手の中にあった筈のものを」
【???】
「さあね? ソレは、お姉ちゃんじゃないから知らない」
【ババ様】
「…………しかし陰湿じゃの、お前さんは。分かってはいたが」
【???】
「おや、ご不満かな?」
【ババ様】
「お前さんが人の悪意を解す才を持つならば、このババ様は善意を解すに長けておる。兵蕪は決して、悪い男ではない」
【???】
「……へぇ。あの男がやったことを知ってもなお、そう云うんだ」
【ババ様】
「ソレは過去のこと。今は、鞠のことを誰よりも想い心配する、豪快な父親じゃよ」
【???】
「道具として、じゃないの」
【ババ様】
「娘として、じゃろ」
【???】
「うふっ、どうかなぁ」
【ババ様】
「それにもう、鞠は誰かの道具で収まる存在ではないじゃろう。誰よりも上に立つ覇者じゃ。どっかの誰かさんのお陰もあっての」
【???】
「……あーあ、つまんないなぁ。臥子ちゃんが居なかったら、もっと存分に、掻き乱して愉しめるのになぁ」
【ババ様】
「楽しむぐらいなら、見守っている分にも充分じゃろう? あの子はきっと、これからも面白い景色を見せてくれる」
【???】
「……まあ、鞠ちゃんの困り顔、だーいすき、だから。やることないし、笑星くん辺りに期待しよっかな。それに……」
【ババ様】
「……お前さんなら、気付いてるじゃろ。随分、この中央大陸には……嫌な空気が充填されておる」
【???】
「流石運命操作の霊獣さん。“爆弾”に気付いてたかぁ」
【ババ様】
「爆発するのは、いつじゃ?」
【???】
「何の為に、無理矢理お姉ちゃんの力に即刻慣れさせるよう仕向けたと思ってるのー嘘つきさん。……このお祭りに乗り遅れずには済みそうでよかった。あー楽しみぃ!!」
【ババ様】
「この祭りは、流石に要らないの……」
【???】
「ううん、必要不可欠。摂理には重大な意味がある」
【ババ様】
「その意味、無闇に掻き乱しておらんかのお前さん。大丈夫かホントに?」
【???】
「極力、邪魔はしないよ。臥子ちゃんも居ることだし……それに、たとえ摂理があろうとも、大事なのは“主人公”。さあ……私の鞠ちゃんは、どこまでそうあれるかな」
【ババ様】
「……お前さんの行動基準は、結局よう分からんの」
【???】
「それは当然のこと、かな。私達の価値を決められるのは、主体者なんだから。あくまで私は、約束を全うするだけ……それに支障が無い分、自由を満喫☆ 賢いでしょ?」
【ババ様】
「何が自由なもんか。まぁ、そうじゃな……これからもババ様は、鞠の左眼となり、鞠を助ける存在であろう。そして――世界の姿を、見届けようぞ」
【???】
「いつでも、見守ってるからね。私の可愛い、最愛の鞠ちゃん……ふふっ――」
Stage
紫上学園 ホール
【四粹】
「――それでは平保31年度、3学期実力試験結果発表式を始めます。まずは総評を、宮坂学園長お願いします」
【宮坂】
「……もうアレから、1年が経とうとしているのかと思うと驚いてしまうな。歳の所為だろうか」
【六角】
「歳ほんとにとってんのかねあの人」
【宮坂】
「皆はどうだろう、この1年で何か変わっただろうか? ふふっ……変わっただろう。よく見返すといい。その助けとなるかは分からないが、あえて今から、1年前……ではまだないが、4月の総評の時にも話した、忘れてもらってもいい愚痴話をもう1度するとしよう」
【菅原】
「あらら、長くなりそう」
【宮坂】
「「学び抜いた果てに辿り着く境地とは、何なのか」……私は、教育者としてずっと考えてきた。合わせてこの1つの例も再び紹介しよう。私の親友は、とある変わった学園で、その学園の精神に従い、兎に角沢山学ぶことを教えられた」
【邊見】
「そう云えば、そんな感じの例、出してたね~」
【宮坂】
「どんなに変わった学生が居ても、必ず全員が幅広い活動を余儀なくされている。文系理系で分けることもせずどちらも有りっ丈触れさせ、また数多くの実労が実質課されていたのだ。賃金付きだ」
【秭按】
「……思い当たる節があるのがまた不思議ね」
【宮坂】
「学校経営の視点からして、それは大変無理がある教育方針だ。カリキュラムを詰め込み、学生たちの自由を多く束縛することは必ずしも学生たちの為にならないからだ。膨大な収入源も必要だし、社会のもと展開する以上妥協の時は訪れるだろう。だが、その学園は……妥協をしなかった。それは何故なのか、親友は問うた。すると親交のあった教師は、こう云ったそうだ」
「どんな手を使ってもいい、どんなルート構築をしたっていい、その果てに辿り着いたなら、そこに本当の自由が待っている筈なのだ」。
【宮坂】
「……学園とは、分岐点を作り与える場所だ。文系と理系でクラスを分けるとは、学生の意思に関係無く一方の道を殆ど完全に諦めさせることを肯定しているのだ」
【冴華】
「……合理的、とは思うけど」
【宮坂】
「現にソレが君たちの進学や就職において役に立つシステムだろう。だが、本当にそれでいいのか? 我々の知ったような口が、少年少女の自由な歩みを、あまりに殺してはいないだろうか? 故に……この学園において、紫上会という組織はあまりに過労な環境にあるのかもしれない」
【信長】
「一般的な生徒会と比べて、仕事が多すぎるのは確かだな」
【深幸】
「ただ教職員が仕事サボってるってわけじゃなかったんだなあ」
【宮坂】
「この愚痴を初めて君たちに零したあの時、私は1つの予感を抱いていた。私が延々悩んできた、この1人間にはどうしようもない問いに……答えが出るかもしれない、とな」
【笑星】
「へぇ~、出たんだ……」
【宮坂】
「まぁ、実際は言葉にまとめられてすらないのだがね。しかし、当たらずも遠からず、私は期待した通りの1年を過ごすことができたと思っている。紫上学園は――進化した。この新たな歴史が、この先紫上学園を、無論立ち会った君たちも、本当の自由と呼ぶに値する境地へ導く大いなる学びであることを、私は断言しよう!!」
【六角】
「おーい学園長、その話って卒業式でやろうやー! ちょっと壮大過ぎー!」
【宮坂】
「おっと失礼、それもそうか。では、独り言はこれくらいにして――そろそろ結果発表と参ろうか! 負けず嫌いの諸君!!」
【学生】
「「「うおおぉおおおおおおおおおおお――!!!」」」
【四粹】
「此度の実力試験は、第1学年と第2学年が受験しています。また、順位発表は上位5名までとさせていただき、詳しい上位者発表については後日7号館外掲示板にて掲示させていただきます。それでは――1年の部成績優秀者5名の発表です。学園長、お願いします」
【宮坂】
「さあ、来年度は君たちに期待だ! 第5位、阿部晋茄! 第4位、阿部黄作! 第3位、阿部柵芯!!」
【学生】
「さ、3位!? 下がった……!! 調子良かったのにッ」
【学生】
「ってことは、まさか――!?」
【学生】
「もう此処まで上がってきたってのか!?」
【宮坂】
「第2位――堊隹塚笑星!! 第1位、邊見聡!!」
【笑星】
「ッッダーーーーー!! 負けたァ~~~……!!!」
【邊見】
「まあまあ~、次が大事だから、その時までとっとこ~」
【学生】
「堊隹塚……表彰準備面子に入ってる時点で5位内確定だったけど、まさかもう邊見に匹敵してるなんて……!」
【学生】
「クッソ、どうなってんだよここ最近のお前の覚醒ッ!!」
【笑星】
「え? えっと……強いて云うなら、家庭教師の質?」
【学生】
「お前ん家、貧乏じゃなかったっけ……」
【四粹】
「続きまして――第2学年の成績優秀者5名の発表です」
【宮坂】
「3年となり、如何様に学び、進むのか――君たちの進化を、あと1年見守らせてもらおう。第5位――安倍貞子!! 君には次の文化祭も期待しているよ!!」
【安倍】
「お任せあれ、学園長!! もう既に、次のお化け屋敷のネタ、上がってるんだよねぇ」
【宮坂】
「第4位――茅園深幸!! いつも児育園が世話になっている、この場を借りてお礼申し上げよう!! これからも君の広く優しく、微細に届く刀捌きを期待する!!」
【深幸】
「この場を借りる必要があったのか疑問ではあるが、あざっす。ていうか4位か俺……お前に負けたのか俺……」
【冴華】
「ふふっ、頭の出来が違うんですよ、茅園」
【宮坂】
「第3位――村田冴華!! 君の道は……もしかすれば困難が多いかもしれない。だが忘れないでくれ、君の背には確かに、紫上学園の輝かしい誇りが宿っている! 君は、独りではない。故に、総ての期待に応え戦い続けたまえ!!」
【冴華】
「承知しています。勝者として、何より敗者として……感謝を忘れずに、日々を生きさせていただきます」
【信長】
「……俺と言葉が被っているな、村田。まあいいが」
【宮坂】
「第2位――松井信長!! 今年こそが、君の本当の戦いだろう!! 君ほどこの紫上学園の似合う男はいない。君のその、陰り無き熱で以て今度こそ、あの憎き稜泉学園を打破し甲子園の覇者となるのだ!!」
【信長】
「お任せください、学園長、皆! 8月にはこの場所に石山の首を晒してみせましょう!」
【四粹】
「いや、それは事件です松井さん……」
【宮坂】
「そして――第1位は、君だ」
【笑星】
「うーん、まあ分かってたけど……」
【深幸】
「ある意味1番盛り上がりようないよな」
【信長】
「俺の上に立つ人は、貴方以外には有り得ない」
【四粹】
「……第1位、“覇者”の発表です」
【宮坂】
「1500点満点ッ、砂川鞠ぃいいいいいいいいい――!!!!」
【学生】
「「「うおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――!!!!!!」」」
【鞠】
「……………………」
な……
なっっっっがあぁあああああああああああいぃいいいいいぃぃぃぃぃ……!!!!
私の名前呼ばれるのにどんだけ時間掛けてるの、この試験の結果発表するだけの無価値な式……!!
私この後イベントの設営確認しなきゃいけないのにぃぃ……。
【冴華】
「ていうか、また1500点満点やったんですね……晩ご飯の時にフォーク落としまくってるの見て何となく予想はしましたけど」
【鞠】
「だって弱味見せたら虐められる……」
【冴華】
「ははは……まだそんなこと仰ってるんですか貴方……」
お外のお客様を呼ぶこともなく、ただただ敵に晒されまくるだけのこのイベントがやっぱり私は1番嫌いだってことが分かった。
【学生】
「「「会長ッ! 会長ッ! 会長ッ!!」」」
そして最近、総じて皆さんの私に対する嫌がらせの質が陰湿に上昇しているのを私は感じている。
流石紫上学園、ただ負けっぱなしというわけにはいかないようだ。研鑽の時間、もっと他にあてればよいものを。
まあ、いいけど……私は負けないから。
【宮坂】
「……ありがとう。君が此処に来たことは、永劫紫上学園の誇りにする。もういっそ記念碑立てようか」
【鞠】
「立てたら貴方のご友人のパワーで理事会をボコります」
【宮坂】
「おや……ははっ、気付いてたのか」
【鞠】
「……どうでもいいですが。では、仕事があるので、もう失礼します」
表彰状を受け取ったなら、もう帰っていい。1位――すなわち覇者であるなら尚更のこと。
私は、私の常識のもと踵を返す。いつも通り、観衆どもを無視して真っ直ぐ、出口を見て。
【信長】
「ん……? もしもし……え!? 会長ッ!!
【鞠】
「……どうしました?」
うわ、アクシデント……?
【信長】
「新年クラウチングスタート餅つき大会の設営をしてた野球部からですが、リハーサルで事件発生したみたいです!!」
【笑星】
「え、マジで!?」
【深幸】
「事件って、喧嘩とか?」
【信長】
「いや……餅が逃げたらしい……」
【四粹】
「……餅が逃げた?」
おっと頭痛の準備をしとかないといけないかな。そんな予防策なんて調べたことないからどうしようもないんだけど……。
【信長】
「なんでも、赤羽が停学中に暇潰しがてらネットで勉強していた錬金術を餅つきに組み込んでみたらうっかり生命が宿ってしまったとか……「灼かれて突かれて伸ばされて喰われる人生なんか糞食らえだ」と分散して逃走を図っているとか」
【鞠】
「またアイツかぁぁぁぁ……ッッッッ」
ていうか何その臥子レベルの奇跡……!! そんなお餅さんどうやって処分すればいいの……ッ。
【笑星】
「人生って……人じゃないじゃん……」
【冴華】
「そんなどうでもいいコメントしてないで出動されては……?」
【深幸】
「それもそうだな。詳しい場所とかは?」
【信長】
「児玉先輩らOBの力も借りて、何とか学園の敷地内からは出ないようにしてるらしい。野球部グラウンド、1号館、2号館、食堂、職員室の5箇所で暴れてるとか」
丁度5箇所、か……。やむなし。
臥子を呼ぶのもありだけど、それは最終手段としよう。
【鞠】
「茅園くん」
【深幸】
「ん、ああ」
【鞠】
「貴方は2号館を、玖珂さんは1号館を。学生たちの協力を得て確実に追い詰めるようにしてください」
【深幸】
「ああ…………ん?」
【秭按】
「……じゃあ、司会は私が引き継いでおこうかしら、玖珂くん」
【四粹】
「は……はい。ありがとう、ございます……」
【鞠】
「松井くんは野球部グラウンド。ついでに彼奴にも錬金術云々の事情聴取しておいてください」
【信長】
「ッりょ、了解しました――!」
【鞠】
「笑星くんは食堂。但しあんまり走らないこと。無理をしたらお餅没収」
【笑星】
「何その可愛いペナルティ、俺だけ過保護――い、いやそれよりも――」
【鞠】
「私は職員室のを捕らえます。解散」
野球部は今イチ信用に欠けるので、脱出されないうちに現場へ急ぐ。
歩いてはいられない。走らないと。
【笑星】
「え、ちょ、待ってよ鞠会長――!!? 俺の中でも大事件だよぉーー!!!」
【深幸】
「び……ビクったぁ……」
【信長】
「……ははは……ははははッ、さあ期待された仕事だ松井ぃいいいいッ、成果を会長に持って帰るのだ信長ぁああああああ――!!!」
【四粹】
「……ふふっ……」
障害を撥ね除け、私は手を伸ばす。
失敗することなく、負けることなく。
覇者のこの手で以て、必ず私は掴み取ってみせる。
【ババ様】
「のう鞠」
【鞠】
「何ですかッ、この忙しい時にッ……!」
【ババ様】
「ババ様、今ニヤニヤが超絶止まらない」
【鞠】
「はぁ……?」
【秭按】
「それでは、仕事の入った紫上会が先に退場されます。皆さんどうぞ、お声を拝借」
【宮坂】
「さあ、3学期も戦い抜け、紫上会の――覇者のもとにッ、存分に輝くがいい!! 紫上学園生ぃいいいいいいい!!!」
【学生】
「「「うおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」
【鞠】
「覇者のもとにって何!? ああもう、早く――早くこんな処から、卒業するぅぅぅぅ……ッ!!!」
油断するな、その時まで。
砂川鞠は、道を之く。
砂川鞠は、笑わない。