10.11「今の道は」
あらすじ
「(………………そっか……)」死の町、お祭り騒ぎ。過去と現実が混じり合うその一点で、砂川さんが1つの“真実”を眼差します10話11節。砂川見聞録、次回が最終回です。
砂川を読む
【鞠】
「……ッ――」
【安倍】
「……あ」
――見たことある制服の、見たことある顔と行き会った。
【安倍】
「…………(←汗)」
【鞠】
「…………(←睨)」
【安倍】
「……ひゅー……ひゅー(←口笛)」
【鞠】
「…………(←睨)」
【安倍】
「あ、いっけね、森でスギ花粉燃やしにいかないと――(←逃)」
【鞠】
「待ちなさい(←掴)」
スギどころか森も無いに等しいから今此処。
そして同じく此処には無い筈の姿だ。
【鞠】
「何ッ、してるんですかッ!? 貴方、燻牆村は!?」
【安倍】
「やだなーまりんちゅ、今日の私自由スケジュールだよ? 明後日からだもんお婆ちゃんに会うの」
【鞠】
「次私をまりんちゅと呼ぼうものならフロントフェイスロックを決めます」
そういえばそうだったか……でもこの人、大輪行く理由あの元気な美魔女だけだったよね。総ての行程は際布都に集中してたから、てっきり暇さえあれば帰省に励むのとばかり……。
【鞠】
「いや、おかしいでしょっ、何で此処いるの――!?」
【安倍】
「……何でって……興味関心に、従って?」
【鞠】
「は……はあぁああああああ――??」
【安倍】
「思ってたのとはだいぶ違う景色だけどね、もし此処が焼けていなかったらって想像すると……きっと此処は本当に綺麗な町なんだなって思った」
クラス委員長が、後ろを向いて、そのまま後退して……
【鞠】
「え、は?!」
つまり私にぶつかってきた。
【安倍】
「パシャリ」
同時、いつの間にやら持っていたアルスで町を撮影した――
【安倍】
「へへっ、ツーショット~」
――いや、違う、自撮りだ。しかも私も巻き込んでの自撮りだッ。
【鞠】
「な、何のつもりですか」
【安倍】
「「友達の証」、的な……? ほら、お婆ちゃんこういうの見せないと納得しないかもだから。ね?」
【鞠】
「いや、ね、じゃなくて」
【安倍】
「……これでまた、大切な思い出が1つ増えた」
今度は前進した。
【安倍】
「ホントに、ありがとね。まりんちゅ――はダメなのか。じゃあ……まりっち! 復興、頑張ろうねー!」
そしてそのまま全力疾走。
……私に殴られるのを恐れてのことか。
【鞠】
「……はあぁぁぁぁぁぁ……」
ワケ分かんない……。
【信長】
「会長、今、安倍がいませんでしたか……?」
【鞠】
「……いました。きっと私に嫌がらせをしに……」
【深幸】
「いやいや、態々そんなことの為に修学旅行の時間使わねえだろ……って、ん?」
【冴華】
「……あ」
【和佳】
「ありゃ」
【鞠】
「……………………」
見たことあるどころじゃない2人が通りすがった。
……いや、通りすがるにしても場所がおかしいッ!
【冴華】
「いっけない、ヒノキ焼きに行かないと(←逃)」
【鞠】
「待ちなさいッ(←掴)」
この人は女潤らへんだった筈なのだけどッ!!
【臥子】
「あーちゃんがいます」
【和佳】
「鞠様、ふーちゃん、会えた! 会えないかと思ったー……」
【鞠】
「会えないのが普通なんですが……何で、居るんですか……?」
【和佳】
「お姉ちゃんが、鞠様の故郷に行くっていうから和佳も連れて来てもらったんです……!」
【冴華】
「か、かかかかかか勘違いしないでくださいね!? 私は別に、楽しみにして行きたいとか思ってたわけじゃ、そんなじゃありませんから――」
【和佳】
「え……? 夜も眠れないくらい、ワクワクしてたんじゃ……」
【冴華】
「和佳ぁ~……(泣)」
【信長】
「もう俺はお前のキャラが分かんなくなってきてるよ」
私は今の状況が益々分からなくなっている……。
【鞠】
「……おかしくないですか。貴方間違いなく、この町野蛮野蛮って嫌ってたじゃないですか……」
【和佳】
「え? お姉ちゃんそんなこと云ってたの……? ダメだよお姉ちゃん、貶める言葉はメッ」
【冴華】
「はい、ごめんなさい反省してます……」
何か私の知らないうちに姉妹の立場が逆転してた。
【冴華】
「……しかし、私が此処を野蛮と思っていたところで何も問題は無いでしょう」
【鞠】
「は?」
【冴華】
「野蛮、結構ではないですか。私には相応、そう考えますよ」
……画伯姉は笑った。
今更だけど、随分表情が柔らかくなったように思う。間違いなく、4月頃と比べたら。
【汐】
「冴華ちゃーん、和佳ちゃーん」
【行】
「配給を手伝ってください。ぶっちゃけ我々本業以外は戦力外ゆえに」
【冴華】
「では、ごきげんよう」
【和佳】
「じゃあね、ふーちゃん頑張ってねー!」
手を繋ぎ、姉妹は外を笑って歩く。
……その光景は別に文句も無いんだけど、もっとマシな場所を歩けばいいのに――
【鞠】
「――って何でナチュラルにあの2人まで居るの!!」
【四粹】
「……あの4人だけじゃありませんね。どうやら……」
……そう。気づき始めていた。
工事したいって云ってるのに、外にはわんさか、人が立っていて。
その中に、それなりに。
その制服を着た少年少女が紛れていた。
【笑星】
「修学旅行の人達だよ、俺憶えてる、皆大輪組」
【信長】
「……フリーの日は、ホテルさえ間違えなければ自由に動けることになってるが、まさか皆、優海町に来るなんて」
【深幸】
「いや、しかし今の優海町、てか南湘は入ることすら難しいってのに……何で」
【四粹】
「入ること自体は、学生単位ですので問題無いかと。ただ……」
前会長の時も少し気にはなったけど……。
皆、復興云々を知っている。コレは一峰グループしか知らないことの筈なのに。
つまり……内通者がいるってことだ。
【四粹】
「冴華お嬢様、でしょうね」
【鞠】
「恐らくは……パパとも打ち合わせ済みでしょう」
一般学生でもあり、一峰グループの1人でもあるのは彼女しかいない。
パパ……また私に黙ってたなっ。
【鞠】
「何なんだ……何がしたいんだ、皆――」
【笑星】
「……何か企んでる、とかじゃないんだと思うよ」
また眉間に皺が寄ってきてる私の顔を、雑務が覗く。
そして笑う。
【笑星】
「単純に、皆知りたくなったんだよ。俺たちの会長のことを。だから皆、来たんだ。……ねえ、会長。見てよ、皆の顔」
……見渡す。前後左右を。
死の町を――
【子ども】
「お姉ちゃん、どっから来たのー?」
【女子】
「紫上学園っていうところ。すっごく離れてるんだ。此処は、良いところ?」
【子ども】
「うん! 沢山、森があって、楽しいんだ! でも、無くなっちゃった……」
【女子】
「そっかぁ。でも大丈夫だよ、無くなっちゃっても、埋め合わせるってことはできる。時間は掛かると思うけど、きっと緑は蘇る。だから、負けちゃダメ! 勝ちに行かないと!」
【子ども】
「勝つ……? 何に?」
【女子】
「さあ、何だろ? でも、何であってもいいよ、負けなきゃいいんだから!」
【男子】
「……え!? 真理学園の学生ってそんな忙しいのか……働いてるんだなぁ」
【学生】
「遊んでていいならそうしたいけど、そういうわけにもいかねえし。それじゃ、生きていけないんだから」
【男子】
「おお……何か部活して勉強して買い食いしてるだけの自分が酷く矮小に見えてきた……」
【学生】
「いや、いいんじゃねえの? 余所は余所っていうか……羨ましい気もするが。そっちの生活も聞かせてくれよ。まず余所の普通の学校の奴とか来ないんだよ此処」
【男子】
「いいけど、普通のことしかないぞ……?」
【学生】
「いいんだよ、新鮮なことに変わりはない」
【大人】
「「「全裸になるなら~♪ こういう具合にしやさんせぇ~♪(←全裸)」」」
【男子】
「「「アウトッ!!(←全裸)」」」
【大人】
「「「アウトォ!!(←全裸)」」」
【男子】
「よよいの――」
【大人】
「よおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおいいいいいいい!!!」
【男子】
「ぐ――ぐああぁあああああああああああ!?!?」
【女子】
「ッ阿部が負けた!? いや、ジャンケンには勝ってるはずなのに――」
【男子】
「何て強さだ……! 優海町、ある意味野蛮を越えている……!」
【女子】
「だ、大丈夫……まだ完全に敗北したわけじゃないわ! 私たちには会長が附いているんですから――!!」
【六角】
「その前に、前会長である俺と――」
【菅原】
「この私に附き合ってもらおうかあぁあああああああ……!!!」
【男子】
「「「六角ううぅうううううううううううううう――!!!!」」」
【女子】
「「「きゃーーーーー、菅原先輩ーーーーー!!!!」」」
――およそ、死んでいるとはまず云い難い、活発な人々の姿。
たとえ外を歩けるようになろうとも、食糧や薬があろうとも、多くの人と多くの緑を失ったこの町が元に戻ることはないだろう。
それでも……人々は、ことのほか笑っていた。
【深幸】
「……楽しそう、だわな。美千村先生の云ってたように、飢えてたものを俺たちが埋められてるんだ。足りないものは、隣に居る奴が補ってやればいい」
【信長】
「それに、どうにもこの町は負けず嫌いな性格を持っているように思えます。死んでいる暇はない、とでも云うかのように」
【鞠】
「…………」
【四粹】
「しかし、流石に騒ぎすぎていますね……仲良くなるのはいいのですが……」
まったくだ。
コレでは一向に、工事にシフトできないじゃないか。
自由な日を割いてでも来てしまったなら、そのやりたいことを私は尊重しなきゃいけないじゃないか。
総てが崩れるわけでないにしても、大いに私の計画が狂っていく。
【笑星】
「……ね、鞠会長。俺はこういう、皆が笑顔になれるような景色を作る為に、会長になりたいんだ」
【鞠】
「……いきなり、何ですか」
【笑星】
「鞠会長が、来てくれたら。会長が会長になってくれたから、今皆は此処に来たんだよ。此処が、ホントは良い場所なんだって気付けたんだよ」
【優海町民】
「「「いええぇええええええええええええええいいいいいい!!!!」」」
【紫上学園】
「「「ひゃっはあぁああああああああああああああああああ!!!!」」」
【笑星】
「だから……ありがと。俺たちと、出会ってくれて!!」
【深幸】
「ああ。サンキューな。今年は本当に、最高だった」
【信長】
「総てに、ありがとうございます。そして……」
【四粹】
「これからも――どうか末永く」
【鞠】
「ッ――」
ち、違う。
私はそんな、貴方たちの笑顔など予定に入れたことなんて1度もない。
なのに……
【和佳】
「お姉ちゃん……幸せ、だね」
【冴華】
「ええ。和佳と一緒に……これからも、ずっと」
【汐】
「……凄まじい光景ですねぇ、色々と」
【行】
「その“災禍”の中央にいるのは、もしやお嬢なのではないですか?」
【安倍】
「あっはは! へぇ~特変ってそんな凄いんだー。でも、うちの生徒会長も負けてないんだなーコレが。これまだ云ったら殺されるんだけど、私の1番の友達なんだ」
【菅原】
「はっはははははははは!! さあ、朝だろうと構わず乾杯といこうか!! 死んでも死なない、否、死んでも生きてやる優海町と!!」
【六角】
「我らが最強の会長殿に――かんぱあぁあああああああああああああああああいいい!!!!」
【全裸】
「「「いええぇええええええええええええええいいいいいい!!!!」」」
色んな声が聞こえてくる。
あらゆる過去のどれとも類似せず。
繋がりの無い筈の過去と現在が、混じり合う……この光景は――
【笑星】
「さ、俺たちも、いや俺たちはしっかり真面目に、住民に相談してみよっ。あんだけ調子の良い人達なら俺たちに味方してくれるかも」
【凪】
「やめといた方がいいと思うけど。服剥かれるわよ」
【臥子】
「ふーは、裸な方が調子が良い……」
臥子を抱き止めながら、私は――1つの“真実”を、右眼に焼き付ける。
【鞠】
「(………………そっか……)」
これが、今の――私の道、なのか。
【臥子】
「……むー……」
【笑星】
「あっれ、臥子ちゃんの水着、色変わってない……? 紫になったよ鞠会長」
【鞠】
「駄々をこねてもお外で全裸は赦しません(←なでなで)」
【臥子】
「その常識は、この町では説得力を持たないとふーは解します」
【深幸】
「なんて教育に良くない町なんだろうなぁ。ていうか本当、お前と相性悪すぎるだろこの町」
【信長】
「図書館に籠もりたくのも、分かりますね」
【鞠】
「貴方は寧ろ率先して勝ちにいくタイプでしょう」
【信長】
「はは……確かに。ですが今は会長の勝利を、優先して参りましょう」
【四粹】
「宴会騒ぎになれば、現状漏れなく紫上学園生も敵となりそうですね」
その通りだ。彼らはいつも私を邪魔してくれる“敵”。
そして私は何より私の平穏を求めるのに、それは何故かどんどん離れていってしまい。
結果何故か、私の周りが笑顔になっていくという謎の法則。
【鞠】
「……はぁ……」
私は、なんて不幸な少女だろうか。
……そうでしょ?
お姉ちゃん。
【鞠】
「……抑もコッチに運ばれてくる物資は南湘の町分です。私はソッチも考えなければいけないんです」
【笑星】
「え、そうなの!?」
【臥子】
「総ての町のデータは取得済みです。でも、優海町優先な物資運搬を選択したので、優海町で手こずっているとどんどん物資が散在していくのです」
【鞠】
「なので時間がありません。無駄なく、テキパキいきます」
【笑星】
「よっしゃあ、コミュ障な会長の代わりは任せてよ!」
【鞠】
「…………(←頬引っ張る)」
【笑星】
「いひゃい~ひゃなひへぇ~……」
【深幸】
「ソレやってる時間が時間の無駄だろッ、ていうかまずはしっかり紫上学園生を指揮することから始めようぜ、数はあるに超したことないんだし」
【信長】
「となると、最効率は……六角先輩の周りだな!」
【四粹】
「完全に酔いが回ると手遅れです。会長」
【鞠】
「……いいでしょう。その案、採用します」
進むしかない。
私にはもう、この道しかないのだから。
【笑星】
「よぉおおおし、全力で今日を突っ走るぞーー!!」
【鞠】
「や く そ く は ?」
【笑星】
「無茶にならない程度に頑張るぞー……」
今度こそ総てを手中に収めたまま――
必ず辿り着いてみせる。
【鞠】
「……早く、来てくださいよ――先輩」
――私の、新たな平穏へと。