10.08「図書館」

あらすじ

「さあ……ただ、その場所では何故か飲食が許されてるんですよ」笑星くん達、図書館に辿り着きます。デカい図書館のBGMってたいがい荘厳ですよねな10話8節。

砂川を読む

vseboshi

 ……当初俺たちが予定してた最大目的の1つは、果たしてしまった。

 望まない形だったけど。

【深幸】

「この先、アルスを持つこともできないって……どうやって生活していかなきゃいけないんだろうな」

【信長】

「それだけじゃない、程度によっては現代社会の施設の大半を自主出禁しなければならない」

【笑星】

「流石にそんな重症のまま地上には出てこないんじゃないかな……」

 鞠会長にどう伝えたものか、悩みながら……。

 鞠会長と合流するのに1番期待ができる場所で、俺たちは待つことにした。

【亜弥】

「――此処が」

Stage

真理学園 図書館棟

【亜弥】

「真理学園の図書館です」

【笑星】

「…………」

 これも話に聞いていた、けど……それでも驚く。

 俺はこんな、広大な図書館を見たことがない。

【深幸】

「……これは、会長とすれ違う可能性結構あるよな……」

【信長】

「寧ろ会長とバッタリ会える可能性があるんだろうか……」

 困った。一体何処で待てば、会長と会えるんだろうか。

 会長が、確実に訪れるであろう箇所は……

【笑星】

「亜弥ちゃん、鞠会長とゆかりのある場所って何か聞いてない?」

【亜弥】

「え? それは、私には……――あ」

【四粹】

「何か心当たりが?」

【亜弥】

「私はさほど親交がありませんでしたが、兄さんとは仲良しだったみたいなので……よくお茶会のお土産を家に持ち帰ってきてました。その際砂川さんの話題がよく……」

【四粹】

「……お茶会?」

【深幸】

「それは……図書館のイベントか?」

【信長】

「いや、図書館だぞ。飲食禁止だろ」

【亜弥】

「そうですね、飲食禁止です……あ、でも確か一部、館内でも何故か飲食が許されたスペースがあるんです」

【深幸】

「は? バルコニーとかじゃなくて?」

【亜弥】

「図書委員ではないので詳しい説明には自信ありませんが……えっと、何処かに館内マップは……」

 入口から少し奥へと進む。

 建物の柱に貼り付けられた地図を見つけた。

【亜弥】

「えっと……あ、此処です」

【笑星】

「……リラックスエリア?」

 図書館の中にはどうやら、幾つか「リラックスエリア」なるスペースが設定されてるらしい。ちょっと特殊な形状の、リクライニングに適したチェアーやソファが置かれてて、ゆったりした気分で本を読めるらしい。

【亜弥】

「図書館を好む真理学園生は少ないですし、教室のある一般棟からは可成り距離もありますから、わざわざリラックスしに来る人は稀みたいですけどね」

【深幸】

「悉く資金の無駄遣いじゃねえか……」

【四粹】

「大学の図書館としたって申し分無い設備量ですね、勿体無い……」

 そんなリラックスエリア。地図的には2F北東にはその1つであろう、「リラックスエリアM」があった。

 ……此処だけ、「M」だ。他は無印だ。

【笑星】

「Mって、何……?」

【亜弥】

「さあ……ただ、その場所では何故か飲食が許されてるんですよ。勿論、零さないよう細心の注意を図るようにとのことですが」

【深幸】

「……でも抑も利用者は居ないんだろ?」

【亜弥】

「居ません……なので其処だけ「M」なのも図書委員以外誰も気付いてない気がします」

【深幸】

「何なんだ……」

 でも、繋がった。

 鞠会長が行きそうなところ。井澤先輩と何度か一緒に時間を過ごした場所。

【亜弥】

「それでは、最後まで付き添えないこと心苦しくもありますが……私にも仕事がありますので」

【笑星】

「ごめん、こんな処まで案内させちゃって。凄い助かったよ」

【亜弥】

「借りの一部も返せていません……困ったことがあったら、いつでも生徒会室を訪れてください。では……鞠さんにも、兄さんのことを合わせて宜しくお伝えください」

 亜弥ちゃんと別れて。

 「M」へと俺たちは向かうことにした。

Stage

図書館棟 リラックスエリアM

【深幸】

「……此処か……」

【四粹】

「そのはずです。何か特別な標示は何処にも見当たりませんが……」

 ……彼方此方の地図をちょくちょく見ながら、何とかクソ広い図書館を巡り、目的地に到着した。

 けど……早速思っていたのと、違った。

【笑星】

「ソファとか無いじゃん……普通の机と椅子があるだけだよ」

 教室にあるような、標準的な机と、標準的な背もたれのある椅子。

 それが多少並んでいる程度。本を読むには充分な環境なのは間違いない。けど、これは俺の印象だとただの閲覧席であって、リラックスエリアとは云えない。

 まあ、飲食が許されるっていうなら文句なしに特殊な場所だろうけど、どうして此処だけが許されているのか。

【四粹】

「……すぐ近くに別のリラックスエリアがあることも、気になります」

【深幸】

「ソッチ見てみるか」

 北東から、北へと。

 本当だ。すぐに見つかった。ビーチで見るようなチェアがある。ていうかパラソルまで刺さってる、これは完全にビーチだった。

【笑星】

「コッチは完全にリラックスエリアだね」

【深幸】

「どれどれ。よっと……」

 茅園先輩が、寝転んだ。

【深幸】

「…………ヤバい。起き上がれない。俺としたことが安易なミスをしてしまった」

【信長】

「疲れてたんだよ。皆そうだろう」

【四粹】

「……上陸してノンストップで活動していましたから。会長と合流できていないのが気がかりではありますが、休むべきでしょう」

【笑星】

「うん。だねー……一応図書館には辿り着けたし」

 4人で、ホンモノのリラックスエリアを占領する。

 ……日常的に利用するには距離があるけど、今の俺たちには素晴らしい環境だった。

 間食程度の夕食しか摂ってないけど……こんな時間だし。

【笑星】

「天井、高いなー……」

 チェアーに寝ながら、上を仰ぎ見る。

 紫上学園の図書室は、コレを見てしまうとちっぽけと云うしかない。

 何もかもが、違う。紫上学園と真理学園はどこまでも違う世界。

 あの人はそんな違う世界からやって来たのだ。

【笑星】

「……鞠会長、どうして紫上学園に転校してきたんだろう」

【信長】

「笑星?」

 ふと、疑問が浮かんだ。

【笑星】

「普通に、良いところだと俺は思った。話を聞く限り、鞠会長にとって此処は……少なくとも紫上学園よりは過ごしやすい場所だったと思うんだ。何より……居場所があった」

【深幸】

「……そうだな。井澤先輩がいる。それに、此処でのアイツは空気で、誰にも気付かれずにずっと図書館でサボり暮らしてた。平穏主義な会長には良い環境だったと思う」

【四粹】

「なるほど……確かに、そう考えると妙ですね。このまま考えたら、ですが」

【笑星】

「……玖珂先輩?」

【四粹】

「会長は、我々の把握していたような、根も葉もないはずの噂を肯定していました。優海町の環境は良かったとしても、其処では多くの事件が起きたのではないかと」

 ……事件。

【笑星】

「何か、嫌なことがあったのかな……」

【信長】

「あまり想像し過ぎるのも失礼だな。俺は考えるのをやめよう」

【深幸】

「ほう? 会長熱の激しいお前には珍しいな」

【信長】

「直接訊けるようになることの方が、大事だよ」

【深幸】

「……なるほどな。それはたいそうお前らしい考え方だわ」

【笑星】

「直接、かぁ」

 ……井澤先輩の言葉を思い出す。

 心を許せる相手……俺たちは、ソレになれるって。

【笑星】

「(ああ……それなら、ちゃんとやらないと)」

 そうなるにはどうしたらいいだろう。

 取りあえず……約束を守らないとね。

【笑星】

「よいしょ」

【信長】

「ん、どうした? 寝ないのか?」

【笑星】

「……ちょっと、探検してみたくて」

【深幸】

「元気だなぁ……流石笑星」

【四粹】

「あまり遠くには行かれない方が」

【笑星】

「俺は地理感覚結構優秀だから大丈夫。おやすみ、先輩!」

【深幸】

「おう」

【信長】

「ああ。お休み笑星」

【四粹】

「お先に、失礼します」

 先輩たちに断りを入れて……。

 バッグを持って、俺は普通のリラックスエリアを抜け出した。

【笑星】

「……迷うわけがないよね」

 だって、すぐ其処だし。

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