10.06「下層」
あらすじ
「まさか、このタイミングで遊びに来るとは流石の俺も想定してなかったぜ…堊隹塚……」笑星くん、遂にあの人と再会します。果たして彼はどんなラスボスと相対したのか、気になるところな10話6節。
砂川を読む
Time
21:15
Stage
???
真理学園には、地下通路が数多存在する、らしい。
そこに降りると、沢山の被災者、そして被爆者たちが暗い中を過ごしているのがみえた。
俺だったら、数日も耐えられないかもしれない、そんな雰囲気。外に出て裸になりたくなるのも分かるかも。
だけど、彼らの居る地下の「上層」には今は用は無く、俺たちが向かうべきは更なる「下層」で。
それでも亜弥ちゃんは、俺たちに「上層」を案内していた。
【亜弥】
「すみません、結構ややこしい手続きが必要でして……」
【深幸】
「……というと?」
【亜弥】
「電話が使えれば地上から呼べばいいんですが……」
【信長】
「俺たちが直接行くことはできないのか……」
【亜弥】
「私も入ったことないので分からないのですが、「下層」は遙かに電磁波の濃度が高いらしくて」
――そんなところで井澤先輩は何をしてるんだ。
【亜弥】
「なので、専用のエレベーターに……」
ポチッと其処のボタンを押して、暫くして……エレベーターの扉が開いた。
【亜弥】
「手紙をポイッと」
エレベーターの扉が閉まった。
【亜弥】
「……これで「下層」で活動している方々に、笑星さん達の来訪が知れ渡ります」
【深幸】
「な、なるほど……ていうかちゃんと生きてるんだろうな、そいつら……」
【四粹】
「問題は、コレで我々と面会してくださるかどうか、ですね」
【亜弥】
「そうなんです……私はあれから兄さんと1度も会えてませんので、あわよくば私も十数日ぶりの兄さんの顔を見たいのですが……」
亜弥ちゃん、それなりに元気が回復してきたみたいでよかった。
と……音が聞こえる。多分、エレベーターが上がってきている……。
扉が開く――
【???】
「こんばんは」
――知らない和服のお姉さんが登場した。
【笑星】
「こ、こんばんは」
【深幸】
「取りあえず……井澤先輩じゃない人が来ちゃったな……」
【信長】
「先が思いやられるな……」
【???】
「申し訳ありません。全員と面会させることは現時点では不可能と理解ください」
理解出来るわけがないけど、真面目に云ってるんだってことは分かる。
……ていうか、何だろうこの人。
誰、ではなく、何。
【笑星】
「(何で俺、こんな緊張、してるんだろ――)」
こんな一言でまとめちゃいけないのは分かってるけど、不思議な人だ。
【???】
「但し……全員でなければ。1人だけならば、連れて行くことも可能です」
【四粹】
「1人……?」
【笑星】
「え……どういうこと? 1人だと、大丈夫なの?」
【???】
「はい。その事情は話すと非常に煩雑とするので控えさせてください。それで……どうされますか?」
1人、会えることになった。
【亜弥】
「あう……そうなると、私は諦めざるをえないです……」
【深幸】
「……誰が行くといいか、かぁ」
【???】
「できれば早く決めて戴けると」
【信長】
「だそうだ。じゃあ……1人指差すか。異論は?」
【四粹】
「ありません。速やかに決めてしまいましょう」
うーん……じゃあ、俺は
【笑星】
「(やっぱりここは、1番しっかりしてる玖珂先輩にお願いしようかな――)」
【深幸】
「はい、いっせーの……」
せっ。
……………………。
【笑星】
「え?」
俺に3人の人差し指が集まっていた。
【笑星】
「え、俺なの!?」
【深幸】
「まあ此処は後輩に雑用を任せようかと。雑務だし」
【信長】
「地下深くは危険だしなぁ」
ここにきて理由が屑ってる!!
【信長】
「――というのは冗談だ。単純に、1番優海町について喰い気味な笑星が相応しいかなと思ったんだ」
【四粹】
「会長が行っていることについても、生存確認の役目をしていたこともあり最も詳しい笑星さんが適任かと。井澤さんが1番欲しているのは会長についてでしょうから」
【深幸】
「ってわけだ、ちゃんと井澤先輩のアドレス訊いてこいよ!」
背中押された。エレベーターの扉が閉じた。
【???】
「……酷い先輩たち。本当に危険なのに……」
エレベーターが凄い勢いで下に降りている。今更だけど、俺に決定しちゃった。
【笑星】
「まぁ……いいけど」
【???】
「……私の側を離れないでください。下の電磁波は、無対策でいくと5秒で死にますので」
【笑星】
「思った以上に危険なところだった!? お姉さんの側居るからって何とかなるもんなの!?」
【???】
「何とかなります。……ほら、着きましたよ」
扉が、開く。
……………………。
【笑星】
「……何だ、此処……」
お姉さんに導かれるままに行く……薄暗い光で溢れた場所。
電気ではなく、まるでお日様みたいな自然のものによって照らされてるような感じ。照らしているのは天井ではなく地下深く、なんだけど。踏み外せば光の奈落行き、なのだろうか。
果たして本当に、此処は学園の地下なんだろうか。
【???】
「此処が何処かをお話することはできませんし、抑も我々も分かりません。それを、これから調査しなければいけないのですが……その前に――」
【笑星】
「――!」
奈落行きの恐れがある怖い通路を抜けて、少し広いところに着いた。其処に――
【笑星】
「井澤、先輩……」
【謙一】
「……よう……まさか、このタイミングで遊びに来るとは流石の俺も想定してなかったぜ…堊隹塚……」
井澤先輩。
俺がその姿を見たのはこれで3度目。1度目はテレビ越しに全國大会で。2度目は直接。
……今度の井澤先輩は、どう見ても元気の欠けた、だけど弱々しさはあまり感じない不思議な姿をしていた。
【笑星】
「何で……微妙に光ってるの……?」
井澤先輩は所々、変に発光してるように見えた。
……何処だろう、俺はその光を何処かで見たこと、あるような……。
【謙一】
「俺もよくは分かってなくてな……色々想像は巡らしてるが、想像でしかない。ならば言葉にするのは、躊躇われる」
【???】
「私が居るとはいっても、このお客様の容体が心配だから、早めに地上に戻すべきかなって」
【謙一】
「だな……悪い、折角来てもらって、しかもエクセレント過ぎるお土産まで鱈腹用意してもらったのに、長話はできそうにない」
【笑星】
「……うん。何となく見てて、分かった」
鞠会長……井澤先輩には、会えそうにない、かな。
亜弥ちゃんが渡してくれた手紙には復興関係のことは全部書いてある。なら、俺が伝えるべきは……。
【笑星】
「鞠会長に電話してあげて」
【謙一】
「…………」
兎に角、これだ。
【笑星】
「鞠会長は、ずっと独りで、頑張ってきたよ。俺も頑張って鞠会長に認められようとしてきたけど……それでもまだ、全然近付けない。だから鞠会長は独りだ……」
【謙一】
「……そうか」
【笑星】
「心を許せる人との電話は……凄く、大切だと思う」
相手が無事だって分かる。
……それだけで、凄く安心できる。もっと頑張ろうと思える。
――鞠会長はどう見ても、無理をしてる。
あんなに怯えている時、隣に会長を安心させられる人がいること、声を掛ける存在がいることは、大事なことなんだ。
だから……
【笑星】
「安心させてあげてよ。今の鞠会長を安心させてあげられるのは――」
【謙一】
「……それは、できないかな」
…………。
【笑星】
「え――?」
【謙一】
「ありがとう、ホント助かった堊隹塚。俺が云ったように、ちゃんとアイツのこと見ててくれて……それを確信してたから、俺はここまで無茶ができた」
【笑星】
「……井澤先輩……」
できないって。それって。
鞠会長と電話しないって、こと――
【笑星】
「――どうして!?」
【謙一】
「その結果、俺はしたくてもできない身体になった」
【笑星】
「ッ……え……?」
【謙一】
「此処は、地上よりも甚大な量の電磁波が残ってる。裸で浴びれば即刻倒れて意識が昏倒する、レベルらしい。俺の悪友の調べだが」
……あれ……それじゃあ。
井澤先輩って、今……
【???】
「……まだ、調子悪いの……?」
【謙一】
「こうして良い再会と良いニュースがあったからな、ちょっとは元気出た……が、まだ数日は此処から出られねえだろうなぁ……砂川がどんな方法で電磁波除去してんのかにもよるかもだが、俺の存在ごと除去されるかもだし……」
【笑星】
「どういう、こと……井澤先輩、今先輩って、どうなってるの……?」
【謙一】
「云ったろ。分かんないって。ただまあ確定なのは、今この優海町で1番酷い電磁波濃度なのは俺自身ってことさ」
【笑星】
「…………」
【謙一】
「勘でしかないことを伝えるのは趣味に合わないんだが……一生、拭えないと思う。つまり、俺はもうアルスを手に取れないんだよ。だから、電話はできない。これが答えになる」
何だそれ。
何がどうなったら、そんな大変なことに――
【???】
「……そろそろ、地上に」
【謙一】
「ああ……」
【笑星】
「ま、待ってよ! ホントに、会えないってことは、分かった気がする……するけど、何か、納得がいかないんだ……!」
【謙一】
「……だろうな」
【笑星】
「それじゃ、鞠会長は何の為に、此処に――!」
【謙一】
「アイツのことだから、お前達に附き合ったんだろ。そして堊隹塚、お前にはしっかり目的があるはずだ」
【笑星】
「ッ……!」
【謙一】
「アイツをもっと知るため、なんだろ。お前ならできるよ――お前たちなら、アイツの心が赦す存在になれる」
【笑星】
「……井澤先輩……」
【謙一】
「砂川に伝えてくれ。近いうちに必ず、可及的速やかに俺からお前に合流する。……そん時はまた一緒にカラオケにでも行こうや」
【笑星】
「…………絶対だよ。年越す前にだよっ」
【謙一】
「ハハッ、頑張るよ。それまでは……もうちょっとだけ、気張ってくれ。あの面倒臭い俺の後輩の相手、任せたぜ」
【笑星】
「上等だよ。やってやるさ、何てったって俺は、次の紫上会会長になるんだから!」
……そう勢いで云ったはいいものの。
鞠会長を差し置いて俺だけ先輩に会っちゃって、且つ「今は会えない」なんて云おうものなら……。
と、今から怯える俺だった……。