10.04「支えたい」
あらすじ
「真理学園および優海町は閉鎖的な地域の筈。それがどうして、中央大陸の紫上学園と親交を持っているのかは解せません」笑星くん達、真理学園に到着します。変な人出てきますが、覚えなくて大丈夫です10話4節。
砂川を読む
Time
20:00
Stage
学園大道路
【笑星】
「…………」
此処が……。
真理学園――
【深幸】
「……でっけええ……」
【信長】
「「森の中に学園が散りばめられている」……そう表現している人がいた憶えがある。まさに、その通りだったんだろう……。」
見渡す限りでは、矢張り例外なくこの場所も緑が枯れきっている。
その光景に自分なりのイメージでもって緑を補色したら……やっぱり此処は森だったんだと確信する。
大きな4車線の道路を組み込んで、空には巨大な「球」が浮いていて、そこから繋がった幾つもの歩廊が森の奥へと延びていってる。それすなわち、建物の数とも云える。
……えっと……。
【笑星】
「俺たち、何処に行けば亜弥ちゃんに会えるの……?」
鞠会長が案内してくれるとばかり思ってたから、真理学園の地理は当然分からない。
森は枯れて見渡しが良くなっているとはいえ、此処を何の考えも無しに彷徨ったなら迷子になるってことぐらい俺でも分かる。
【四粹】
「何処か建物に入ることができれば、上のあの球形の建物を見るに建物内を探索することは可能でしょうが……」
【深幸】
「それをやったらもう不法侵入者認定だもんなぁ……だから何とか生徒会に許可が欲しいんだが――」
【???】
「――止まりなさい」
背後から、声が。
振り返ると……パツキンの美人さんが、結構な険相で俺たちを睨み付けていた。
……あれ、この制服って……。
【笑星】
「え、それって、俺たちのこと?」
【???】
「他に誰が居るというのかしら」
【深幸】
「だって俺たち既に止まってたから……」
【???】
「……………………」
ちょっと紅くなっていた。
【???】
「そ、そんなことはどうでもいいのです。貴方たちは、何処の学園生ですか」
【四粹】
「……それは少々こちらの台詞でもありますが。お互い、真理学園の制服ではありませんね」
玖珂先輩が、前に出た。
……ちょっと空気が変わった気がした。
【笑星】
「先輩?」
【四粹】
「少なからず危険な匂いがします」
【深幸】
「ソッチの意味で、ってか……おいおい」
【信長】
「あまり物騒なことをしたくないものだが……兎も角相手が誰なのかを確かめたいところだ」
えー……まさか、こんな余所様の学園前で戦闘なんて発展しないよね……?
というか、その制服どっかで……えーと……何処だ……。
直接この目で、というわけでは無い気が――
* * * * * *
【テレビ】
「― 怒濤の三つ巴決勝戦、優勝は……星望公選手となりましたーー!! ―」
* * * * * *
【笑星】
「――あ、星望先輩のッ」
【???】
「ッ――」
【信長】
「笑星?」
【笑星】
「ほら、全國大会で! 星望先輩とか氷室先輩着てたじゃんッ。アレと同じだよ!!」
【深幸】
「あー……ん、ってことは……え、譱軀ってことか!?」
【四粹】
「…………」
再度、その女性へと眼を遣る。
うん、間違いない。同じ服だ。間違いようのない、独特なラインのちょっとダサいユニフォーム。
……何だかもっと顔が怖くなっていた。
【???】
「……アレの知り合い、というわけではないようですね。隠すまでもないことです、その通り、譱軀の者ですわ」
【深幸】
「隠してた癖に」
【???】
「キッ」
【信長】
「深幸、あんまり刺激してやるな……」
【四粹】
「相当の猛者と見受けられます。仮に真っ向勝負となれば、勝ち目は薄いかと」
【深幸】
「玖珂先輩でも?」
【四粹】
「どんな護真術をお持ちかに依ります。抑もこの場所で騒がしくすることは本望ではありません」
【信長】
「……しかし、どうして譱軀がこんな処に……? 神出鬼没で有名ではあるが」
【笑星】
「取りあえず、俺たちの容疑晴らした方がいいんじゃないかな? この人、何か面倒臭いけど良い人っぽいオーラは出てるよ一応」
【???】
「云いたい放題云ってくれるじゃない……ッ」
折角綺麗な髪の美人さんなのに、何処か台無し感が拭えない、そんな譱軀の人と出会った。
…………。
【台無しの人】
「……なるほど、修学旅行ですか…………いやなるほどじゃねえよ、何でこのタイミングで修学旅行!? 此処来るの!?」
【信長】
「返せる言葉もありませんが……」
【笑星】
「一応知り合いの真理学園の先生には1人許可は貰ったんだよ。それで今度は、生徒会長さんに話を通したいんだよ。でもこのままだと迷子確定なんだよ」
【台無しの人】
「……まあ、話は分かりました。紫上学園といえば、何やら妙な生放送を仕掛けて世間を騒がせたことで譱軀も一応存在は確認しています。その制服にも憶えがありますわ」
【深幸】
「あの生放送がこのタイミングでメリットになった……」
【信長】
「仕掛けてきたのは稜泉なんだがなぁ……」
【台無しの人】
「しかし、真理学園および優海町は閉鎖的な地域の筈。それがどうして、中央大陸の紫上学園と親交を持っているのかは解せません。故に疑いは晴れておりません警戒すべき集団と見なします」
【笑星】
「ええ!? 真理学園でもないのに何なのこの人!?」
【四粹】
「これ以上の治安悪化を防ぐ為なのでしょう」
【台無しの人】
「……少なからず譱軀が優海町に何のメリットも無い無礼を働いたのも事実。従ってこの惨状の回復に努め埋め合わせを図ることも吝かではないといったところです。ですから、今はこの町の警察なのです」
あの譱軀まで関わってくるなんて……本当一体、何があったんだろ……。
【台無しの人】
「……何となく、貴方がたが陰湿な考えを抱いてきた侵入者ではないことは、分かります」
【笑星】
「え……?」
【台無しの人】
「私が案内してさしあげましょう。不審な点があるなら、即刻拘束することもできますから」
【深幸】
「おお、マジか! 見かけによらず案外良い人じゃん」
【台無しの人】
「今すぐ拘束してさしあげてもいいのですよ……ッ(ピクピク)」
【信長】
「深幸……っ」
【四粹】
「…………」
少し、心配事が増えてしまったけれど。
運良く俺たちは真理学園を案内されることになった。
そして……。
Stage
真理学園 生徒会室
やっと、辿り着く。
【笑星】
「……………………」
【亜弥】
「え――」
此処は真理学園なのか。本当に優海町なのか。
……そう、何処かで疑っていた俺を諦めさせることのできる女子のところに。
真理学園生徒会会長。
彼女の顔もまた、俺の記憶から少し離れて、総じて暗く悪いように思えた。
【笑星】
「……こんばんは、いきなりごめんね……亜弥ちゃん」
【信長】
「久し振りだ」
【亜弥】
「どうして――笑星、さん……信長さん」
【深幸】
「普通に俺たちのこと、憶えてんだな」
【四粹】
「夜分に、アポイントメントも無く失礼いたします」
【亜弥】
「深幸さんに、四粹さんまで……!」
驚き。その奥には、何かの想いがはみ出ていた。
純粋に、喜びではないと思う。
【笑星】
「(美千村先生の云ってたことは、コレか)」
憔悴してるんだ。それは、俺なりにも予想できたこと。
亜弥ちゃんが優海町を大事にしていたのは合宿でよく分かっていた。それが……今はこんな有り様。これが現実。
絶望には、充分だ……。
【亜弥】
「…………まさか……来て、くださるなんて……」
【???】
「本当に知り合いだったのね……」
【笑星】
「来たところで、俺らは会話することぐらいしかできないんだけどね。本気の助けになれるのは鞠会長ぐらいだから」
【深幸】
「因みにアイツもしっかり来てるぜ。今はちょっとはぐれちゃったんだが……」
【亜弥】
「鞠さんまで……そうですか……ふふっ、兄さんに教えて、あげないと……」
【笑星】
「あ、井澤先輩の居場所知ってるんだね」
【亜弥】
「…………兄さんを、御存知なんですか――?」
……あ、そっか、直接井澤先輩のことで話したことはなかったっけ。
【笑星】
「1回だけね。鞠会長繋がりで――」
【苺花】
「亜弥ちゃん!」
いきなり誰かが慌ただしく入ってきた。
勿論、亜弥ちゃん以外の別の人が入ってきてるのに驚く。
【苺花】
「え……あれ!? ど、どうして――」
【深幸】
「色々あってな。それで、どうかしたのか? 急ぎのことだろ、優先しろって」
【???】
「何かあったのかしら」
【苺花】
「こ、コアレスさん……その、外に沢山の、変なロボットさんが――」
【コアレスさん】
「侵入者かしら――!」
【亜弥】
「ロボット……?」
【笑星】
「……それって」
もしかして――
Stage
学園大道路
【機体】
「― 電磁波除去作業中。電磁波除去作業中。怪しいものではありません、なので邪魔しないで。電磁波除去作業中…… ―」
【コアレスさん】
「嘘つけぇ! どう見ても怪しい!! 危険排除します!!」
【笑星】
「待って待ってコアレスさん!」
【コアレスさん】
「貴方にコアレスと呼ばれる筋合いは無いわッ!!」
【笑星】
「ええ、違うの!? コアレスさんって呼ばれてたじゃん!!」
【信長】
「電磁波除去作業って云ってたな……これは――」
【深幸】
「――間違いねえ、ウチの会長がいよいよ動き出したんだな! つーか今どこにいんだよ!」
【四粹】
「井澤さん、保科さん、我々が優海町に来た理由の1つは、優海町の今の状態を知り、復興に助力する為です。特に、我らが会長は大輪の他地域の残留電磁波除去や建築物または設備の修繕を先導されていました。未だ優海町に無許可なことは申し訳ありませんが、どうか我々の存在を町民に周知させてもらえないでしょうか?」
【亜弥】
「…………鞠、さん……皆さん……――」
【機体】
「― 電磁波除去作業中。電磁波除去作業中。1時間後にアナウンスを消し、静音作業にて夜間活動予定。電磁波除去作業中…… ―」
【笑星】
「ってことなんだけど……どう、助けになれるかな? 確実に復興度進むと思うけど、余所者がこんなに張り切っちゃうの迷惑かなってちょっと心配してたりして」
コレを俺たちが確認したところで、どうせ止まらないであろう鞠会長が止まるわけない。なので無駄な問いではある。
無力だなぁと改めて考えながら、亜弥ちゃんへと振り向いた。
【亜弥】
「……ありがとう……ございます……」
……亜弥ちゃんは、尻餅を着いた。
力が、抜けたような感じに見えた。
【笑星】
「…………」
【亜弥】
「ありがとう、ございます……ッ……――」
……小さい嗚咽が、漏れ出した。
【苺花】
「……亜弥ちゃん……」
【コアレスさん】
「…………」
気を張ってたんだと思う。合宿の3日間……正確には2日程度だったかもしれないけど、それだけの附き合いでも充分、亜弥ちゃんの責任強さと優しさを分かってるつもりだ。
誰も助けに来てくれない、物資と元気が尽きていく限界ギリギリの状況下で、誰よりも諦めるものかと……戦い続けていたんだと、思う。それは、どれだけの恐怖に囲まれたことだろう。
でも、もう大丈夫だ。今此処にはあの人が到達した。
【笑星】
「俺たちの役目は、喋ることだよね。鞠会長」
自信を持って行こう、笑星。自分にやれることを、全力でやる。今までだってそうしてきたんだから。
紫上会は、優海町を支援する――!